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「フレイル」対策で寝たきり予防〔上〕
人生の最後まで元気に自分らしく

 1日中、座ったままで体を動かさず、食事は適当に済ませる、という生活が続いている人は、将来「フレイル」になる可能性が高い―。誠愛リハビリテーション病院(福岡県大野城市)の長尾哲彦院長(老年医学)は「要介護状態にならないために、フレイル対策は不可欠。フレイルの段階なら、健康な状態に戻ることができる。年だから衰えるのは仕方ないとあきらめず、意識して予防することが大切」と警鐘を鳴らす。団塊の世代が75歳の後期高齢者に突入すると、介護施設も介護職員も大幅に不足することが予測されている。
 要介護にならずに健康寿命を延ばすためにカギとなる「フレイル」とは?

 ◇「要介護」原因の第3位

 フレイルとは、高齢者が要介護状態に陥る前段階の心身の活動性が低下した状態のこと。要するに「老衰」と言われてきたさまざまな加齢現象の前段階を表す言葉だ。2014年5月、日本老年医学会がフレイル対策の必要性を訴え、ステートメントを発表したが、まだ一般的な認知度は低いようだ。

平成28年に認知症がトップに。脳血管障害は減少傾向。認知症、フレイルは増加傾向

平成28年に認知症がトップに。脳血管障害は減少傾向。認知症、フレイルは増加傾向

 「市民講座で『フレイルを知っている人』と手を挙げてもらうと、ゼロでした。医療関係者ですら詳しく知らないことがある。もっと啓発していかなければ」と長尾院長は話す。

 2016年度の国民生活基礎調査によれば、要介護の原因は1位が認知症、2位が脳梗塞などの脳血管障害、3位がフレイルで転倒・骨折よりもわずかに多い。

 さらに年齢別にみると、要介護の原因のうちフレイルの占める割合が70代後半から急激に増加。80代後半になるとダントツ1位となる。平均寿命と健康寿命のギャップを埋められる可能性はここにある。

 ◇五つの基準

 フレイルの判定基準では、体重減少、疲労感、身体活動の低下、歩行速度の低下、筋力低下のうち1~2項目があてはまるとプレフレイル、三つ以上だとフレイルと判定される。

)体重が6カ月で2~3キロ以上減少

 メタボ対策が注目される一方、高齢者の栄養不足が問題になっている。「とくに独居の男性に多いのですが、女性でも子供の独立や配偶者の死をきっかけに、食事を作る意欲をなくし、食生活がおろそかになってしまう人が多い」

この評価は身体的フレイルを主軸としている。歩行速度、握力などの実測が必要。目安としてペットボトルの蓋を開けるときの握力が約15キロ Cardiovascular Health Study;CHS index

この評価は身体的フレイルを主軸としている。歩行速度、握力などの実測が必要。目安としてペットボトルの蓋を開けるときの握力が約15キロ Cardiovascular Health Study;CHS index

 コンビニ弁当を買っていたのが、次第に買いに行くのさえ面倒になって、その辺にあるものをつまんで済ませる。カップ麺だけ、自分の好きなものだけしか食べないとなると、栄養バランスは偏る。そうこうするうちに体調が悪くなり、おなかもすかなくなって、どんどん痩せていく。

 「太っているから安心というわけではありません。栄養のバランスが悪い人は体重だけで判断はできません。一方、ダイエットしたわけでもないのに体重が減っていく場合は要注意です」

 口の中の状態が悪化するオーラルフレイルの状態から、だんだん食べられなくなってしまうケースも多いという。「食事がいいかげんになると、生活のリズムが崩れ、歯磨きすらしなくなる。すると口の中の状態がどんどん悪くなって、さらに食べられなくなってしまう悪循環に陥ります」

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