新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策においては、マスク着用や手指消毒をはじめとした個人の感染予防行動が有用とされるが、個人の行動に関連する因子についての研究は少ない。大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授の村上道夫氏らはオンラインアンケートに基づく縦断調査を実施し、感染予防行動に影響を及ぼす要因を検討。その結果、COVID-19に関する情報の影響が大きく、流行前後で影響力のある情報源の種類が異なっていたことなどを見いだし、Int J Disaster Risk Reduct2023; 98: 104107)に報告した(関連記事「5類移行前後でマスクへの意識は変わったか?」)。

COVID-19に関する情報源を4分類

 村上氏らは日本に在住する18歳以上の成人を対象に、2020年1月~23年1月に23回のオンラインパネル調査を実施し、コロナ流行前後における個人の感染予防行動の実施状況と特性との関連を検討。不適切回答は除外し、最終的に666例を解析対象とした。

 1回目調査では感染予防行動(マスク着用と手指消毒)に関して、現在(「現在行っている/行っていない」)とコロナ前(「コロナ前に行っていた/行っていなかった」)の両方について回答してもらい、2回目以降は現在実施している行動を尋ねた。

 説明変数として、既報で感染予防行動との関連が示されている個人特性(性、年齢、コロナの恐ろしさ認知、コロナの未知性認知、感染忌避傾向、コロナへの関心、情報源の利用頻度)および居住する都道府県の人口密度を用いた。情報源の利用頻度については、情報源を、①行政および医療機関の公式サイト(医療情報への曝露)、②テレビや新聞などのマスメディア(マスメディアへの曝露)、③インターネット上のSNSなどの情報(SNS接触)、④家族や友人、同僚などとの情報交換(知人との情報交換)-の4つに分類。回答は7段階のリッカート尺度で採点した。

コロナ前後で異なる情報源

 1回目調査時点における感染予防行動について二項ロジスティック回帰分析を行った結果、医療情報への曝露および感染忌避傾向とコロナ前の感染予防行動に有意な関連が認められた〔医療情報への曝露・マスク着用:調整後オッズ比(aOR)1.22、95%CI 1.10~1.35、手指消毒:同1.33、1.18~1.49、感染忌避傾向・同1.24、1.07~1.44、P=0.004、1.51、1.26~1.81、P=0.001〕。マスメディアへの曝露とSNS接触は、コロナ前のマスク着用と有意に関連していた。

 コロナ前にマスク着用および手指消毒をしていた人は、コロナ直後も感染予防行動を実施していた(マスク着用:aOR 60.8、95%CI 30.1~122.5、手指衛生:同91.0、41.6~199.0、P<0.001)。

 2回目調査時点以降で新たに感染予防行動を行ったかどうかについてコックス比例ハザード回帰分析を行った結果、知人との情報交換が関連しており〔マスク着用:調整後ハザード比(aHR)1.12、95%CI 1.01~1.23、手指消毒:同1.09、1.01~1.17、全てP=0.028〕、コロナの恐しさ認知とマスメディアへの曝露は、手指消毒と関連していた(順にaHR 1.13、95%CI 1.00~1.27、P=0.043、同1.09、1.00~1.18、P=0.050)。また男性はコロナ流行前後を問わず、感染予防行動の実施率が低かった。

 以上の結果について、村上氏らは「これまでCOVID-19に関する情報への曝露と感染予防行動との関連が報告されていたが、今回は個人の行動に影響を及ぼす個人特性や情報源の種類が流行前後で異なるという追加的知見が得られた」と結論。「感染対策において、個人の行動意識を高めるリスクコミュニケーション戦略の開発に有益な知見である」と付言している。

服部美咲