食と健康に関する情報は新聞や書籍、テレビ、インターネットなどにあふれているが、科学的根拠に乏しく信頼性が低いものも少なくない。日本人の23%、米国人の約30%が食と健康の情報を一般書(以下、健康本)から得ているとの報告があるものの、健康本の科学的正確性を検証した研究は他メディアに比べて少ない。東京大学大学院社会予防疫学分野の大野富美氏、教授の村上健太郎氏らは引用文献の量と質を指標として、健康本における食と健康に関する情報の質を日米間で比較検討。日本の健康本でヒトを対象としたシステマチックレビューを引用している割合は、米国の2割弱にすぎなかったなどの結果をPublic Health Nut(2023年11月13日オンライン版)に報告した。

日米の売れ筋書籍200冊が対象

 食と健康に関する誤った情報は疾患や死亡のリスクを高める恐れがあるため科学的正確性が求められるが、健康本の情報の質については十分に検証されておらず、いわゆる「トンデモ」な内容が散見される。

 そこで大野氏らは、日本と米国の健康本における情報の質を比較検討する目的で、日米のオンライン書店(日本:Amazon、honto、米国:Amazon、Barnes & Noble)の2021年12月19日午前10時時点(日本時間)における食と健康に関するカテゴリーの売り上げ上位各100冊を選出。書籍のテーマは①料理レシピ、②特定の食事による健康への影響(食物、栄養素、食事パターン、食習慣)、③健康、④減量、⑤特定の疾病の予防・管理、⑥その他-とした。引用文献の書誌情報を特定可能、一部特定可能、特定不能に3分類し、健康または食と無関係の本、雑誌、食品成分表、日記、自伝、教科書、日本語と英語以外の本は除外し、引用文献、学術論文、ヒトを対象としたシステマチックレビューの数および引用文献の特定可能性、著者の医療関連資格について調査した。

特定可能な書誌情報は日本64%、米国97%

 検討の結果、日米ともに約65%の書籍が文献を引用していたが(米国65冊、日本66冊)、学術論文を引用していたのはそれぞれ58冊、31冊であった。ヒトを対象とした研究のシステマチックレビューを引用していた割合は、米国の49冊に対し日本では9冊と2割弱にすぎなかった(P<0.001、)。また、全ての引用文献に特定可能な書誌情報が記載されていた割合は、米国では97%と大半を占めたが日本は64%にとどまった(P<0.001)。

図.日米における健康本の引用文献

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(東京大学プレスリリースより)

 食事摂取に関する公的な指針(農林水産省『食事バランスガイド』、米国農務省・米国保健福祉省『米国人のための食生活指針』など)を引用しているのは、米国の19冊と比べ日本では4冊と少なかった(P<0.001)。

 筆頭著者が病院/クリニックに所属している割合および博士号を有する割合は日本で有意に多かったが(順にP<0.001、P=0.004)、大学、企業所属、医学博士、管理栄養士などに差はなかった。

 これらの結果を受け、大野氏らは「米国と比べ日本では、健康本に記載された情報の科学的根拠について十分な量と質を特定可能な形で提示している割合が少なかった。一般書の著者であっても科学的根拠の重要性を理解し、活用できるスキルを身に付けるべきである」と結論。「引用文献の量と質の担保は、情報の科学的正確性の必要条件だが十分条件ではなく、今後は内容の正確性を評価する方法の確立が待たれる」と付言している。

服部美咲