びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は悪性リンパ腫の中で最も多い病型で、社会の高齢化とともに増加傾向にある。一次治療で約6割が治癒するものの、再発・難治例の治療法は限られていた。今年(2023年)、再発または難治性大細胞型リンパ腫のうちDLBCL、高悪性度B大細胞リンパ腫、原発性縦隔大細胞型リンパ腫、および再発または難治性の濾胞性リンパ腫を適応として二重特異性抗体エプコリタマブ(商品名エプキンリ皮下注)が承認された。同薬製造販売元のジェンマブは、販売提携先のアッヴィと共同で11月28日に東京都でメディアセミナーを開催。国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科科長の伊豆津宏二氏が登壇し、再発・難治性DLBCLの疾患概念および新薬登場による診療の展望を解説した。
4割が一次治療後再発・難治化
日本におけるDLBCLの推定罹患者数は1万~1万3000例で、悪性リンパ腫の30~35%を占める。標準的な一次治療はリツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン(R-CHOP)またはポラツズマブ ベドチン+リツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾロン(Pola-R-CHP)療法であり、約40%が再発または初回治療不応と報告されている。
二次治療として移植後自家造血幹細胞移植+大量化学療法などが行われ、さらに移植不適(約60~70%)、不応(約60%)、移植後再発(約50%)例に対する三次治療として、近年ではCD19を標的とするキメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)療法が選択されるようになった。
二重特異性抗体がCAR-T療法後の新たな治療選択肢に
CAR-T療法は患者自身のT細胞を採取し(白血球アフェレーシス)、遺伝子医療でCARを導入したCAR-T細胞を患者に投与する。他の治療法に比べて予後改善に寄与し一部患者で治癒も認められるが、白血球アフェレーシス施行から海外でのCAR-T細胞の製造、投与までに1~2カ月かかる上、副作用であるサイトカイン放出症候群(CRS)および免疫エフェクター細胞治療関連神経毒性症候群(ICANS)の管理が必要となるため、実施施設・件数は限られる。このような背景から新たな治療法の開発が待たれていた。
二重特異性抗体エプコリタマブは、ジェンマブが開発したDuoBodyを用いて創製され、T細胞の細胞膜に発現しているCD3とB細胞性腫瘍の細胞膜上に発現しているCD20の両者に結合することで、T細胞によるCD20陽性細胞傷害を誘導する。
再発・難治性CD20陽性LBCL患者157例(CAR-T療法既往61例を含む)を対象にエプコリタマブの有効性と安全性を検討した海外の第Ⅰ/Ⅱ相EPCORE NHL-1試験では、同薬投与による全奏効率(ORR)が63.1%、うち完全奏効(CR)が38.9%だった。他方、CAR-T療法の治療歴がない日本人DLBCL患者36例を対象としたエプコリタマブでのEPCORE NHL-3試験ではそれぞれ56%、41%と、CAR-T療法既往の有無でエプコリタマブの有効性に大きな差は認められなかった。
副作用については、CAR-T療法と同様に両試験においてCRSおよびICANSが報告されており、伊豆津氏は「安全性管理のため、ステロイドの予防投与と用量漸増を行う必要がある」と指摘した。
同氏は「エプコリタマブは全量投与に2週間かかるものの、CAR-T療法よりも多くの施設で用いることができ、皮下投与のため外来滞在時間の短縮にもつながる。今後は、CAR-T療法との比較検討および安全性管理を最適化する上で、長期追跡によるデータ蓄積が課題」とまとめた。「これまでCAR-T療法が再発・難治性DLBCL治療のいわば最後のとりでだった。その先の治療選択肢が生まれたことは、臨床医としてありがたい」と期待を示した。
(服部美咲)