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風疹、再び流行の恐れ
胎児に障害残すリスク

 風疹の患者が増加している。予防啓発活動「“風疹ゼロ”プロジェクト」に取り組んでいる日本産婦人科医会は9月初め、妊婦に向けた「風疹からの緊急避難行動のお願い」を発表し、警戒を呼び掛けた。妊婦の感染が胎児に障害をもたらす可能性もあることから、関係者は社会問題になった2013年の流行の再燃を危惧している。
 ウイルスによる飛沫感染症である風疹は、感染後2週間前後の潜伏期間を経て発病する。多くは発熱麻疹に似た発疹を引き起こすが、感染しても症状を示さない「不顕性感染」で終わる患者も少なくない。現在有効な治療薬はないが、ほとんどの患者は発病後5日前後で重症化せずに自然治癒する。ワクチンが普及するまでは、小学校低学年を中心に5年前後の間隔で流行を繰り返していたが、近年の流行の中心は成人、特に男性になっている。これは成人男性に風疹ウイルスに対する免疫力が低い人が多く、当人への感染だけでなく、感染・発症後に妊婦などへ感染を拡大させる可能性も高めてしまう。このため、男性へのワクチン接種の必要性が強調されてきた。

 ◇13年の教訓に学べ

 注意すべきは妊娠初期の女性の感染・発症だ。患者数は多くはないが、胎児に感染して障害をもたらす「先天性風疹症候群(CRS)」=用語説明=を引き起こす恐れがある。このため妊婦やその家族らに関心が集まるが、医療関係者からは「妊娠初期の妊婦やその家族を特定するのは難しい。社会全体で取り組む問題だ」との声が上がる。

国立病院機構横浜医療センター産婦人科の奥田美加部長
 長年、風疹とCRS問題に取り組んできた国立病院機構横浜医療センター産婦人科の奥田美加部長は「40人以上のCRS患者を出した13年の流行では、11年から先行する形で成人男性の患者が増え始めた。しかも11年の前にも03年に流行があり、それからずっとワクチン接種の徹底など警告を発していたのに、あの流行を許してしまった」と嘆く。

 その上で、今年(18年)の患者増加も、20年に大流行する前兆でないとは言い切れない。早急な対応が必要だ」と警鐘を鳴らしている。背景には、03年の流行以来、風疹やCRSに関する啓発や予防のための成人への予防接種の推奨などの取り組みがされてきた。しかし、風疹自体が生命に関わる症例が少ないこと、女性、特に妊婦だけの問題との認識が根強く残ったことから、「患者の急増やワクチンの不足は報道されたが、風疹やCSRについての長期的・体系的な啓発はなかなか進まなかった」と奥田部長は課題を分析する。

 ◇早めに免疫力を検査

 CRS対策には、特にCRSの発現リスクが高くなる妊娠8週間までの妊婦への風疹感染を防ぐことが最も効果的だ。ただし妊娠中は風疹ワクチンの接種ができない。このため、妊婦の周囲にいる配偶者や家族、会社の同僚らが事前にワクチンを打ち、社会全体での免疫力を上げるしか有効な防御策はない、といわれている。

 ワクチンを接種したか不明確な場合は、感染を防ぐだけのウイルスに対する免疫力が維持できているかを検査で確認することができる。また、ワクチン接種を受けた場合でも、時間の経過とともに免疫力が低減している事例もある。

 「数年掛けてでも成人男性を中心とした風疹ワクチンの接種を徹底すべきと言い続けてきたが、なかなか関心は高まらなかった。逆にこのような流行が起きると、一時的にワクチン接種希望者は増加するが、一時的にはワクチン不足が生じて思ったほど接種者は増えず、流行が落ち着くと関心が薄れてしまう」と嘆く奥田部長。それでも妊娠して最初に医療機関を受診した際には、抗体値を計ってほしい。と呼び掛けている。

 ◇感染後の状態は多様

慶応大学医学部の田中守教授
 「私たちの病院では不妊治療や『妊活』で受診する女性の多くに、抗体値の確認やワクチンの接種を積極的に勧めている。このためほとんど感染者を出していない。社会全体の取り組みが必要になるが、妊娠の可能性がある女性全員にワクチン接種を最低1回行い、十分な免疫を持たせることが究極の対策になるのではないか」。今年5月から専門のワクチン外来を解説した慶応大学医学部の田中守教授(産科)は、より積極的な対策を提案する。

 ただ、ワクチンを接種しても100%の人が十分な免疫を獲得できるとは限らないし、事前の準備ができない場合、妊婦が風疹に感染する可能性をゼロにはできない。「だからこそ感染が疑われた際には十分なケアが求められる。専門機関での緻密で正確な検査と、十分でかつ多段階のカウンセリングが必要だ」と田中教授は強調する。風疹に感染したといっても、血中で風疹ウイルスの抗体値が上昇しているだけの場合から、実際に発熱や発疹などの症状が出ている場合まで多くの段階に分かれる。さらに母体が感染していても、胎児にも感染しているかは別に検査して確認する必要があるからだ。

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