アトピー性皮膚炎の炎症や痒みにはさまざまなサイトカインが関与している。これらのサイトカインは痒みの誘導に際し、感覚神経に発現している受容体に作用することが示唆されている。理化学研究所生命医科学研究センター組織動態研究チームの髙橋苑子氏らは、感覚神経のインターロイキン(IL)-31受容体下流における痒み誘導メカニズムについて検討した結果をCell Rep2023年11月28日オンライン版)に報告。皮膚炎に伴う痒みの伝達では、感覚神経における転写因子STAT3の活性化が重要な役割を果たしており、IL-31依存的な痒みだけでなく、IL-31非依存的な炎症性の痒みにも関連することを示した。

IL-31は感覚神経に直接作用して痒みを誘導

 IL-31受容体は一部の感覚神経において強く発現していることが明らかとなっており、IL-31は感覚神経に直接作用して痒みを誘導している可能性が指摘されている(J Allergy Clin Immunol 2014; 133: 448-460)。一方、皮膚の角化細胞にIL-31が作用することで、別の痒み誘導物質が産生されるという報告もある(Acta Derm Venereol 2017; 97: 922-927)。

 髙橋氏らはまずIL-31の感覚神経への直接作用が痒みを誘導しているかを検討するために、感覚神経でのみIL-31受容体を欠損させたマウスと、角化細胞でのみIL-31受容体を欠損させたマウスを作製した。IL-31を皮下投与すると、IL-31受容体の欠損がない対照群のマウスおよび角化細胞のIL-31受容体欠損マウスでは強い引っかき行動が見られたのに対し、感覚神経のIL-31受容体欠損マウスでは、引っかき行動の増加が認められなかった(図1)。このことから、IL-31は感覚神経に直接作用して痒みを誘導しており、少なくとも皮膚炎が起きていないマウスでは、IL-31の角化細胞への作用は痒み誘導にほとんど寄与していないことが示唆された。

図1.IL-31を投与したマウスの引っかき回数(IL-31受容体欠損マウス)

50581_fig01.jpg

IL-31受容体の発現が減弱、予期していなかった発見

 続いて、感覚神経のIL-31受容体とヤヌスキナーゼ(JAK)の下流でどのような分子が痒み誘導に関わっているかについて検討した。IL-31が受容体に結合すると、活性化したJAKによって転写因子であるSTATファミリーが活性化される。髙橋氏らは感覚神経において、STAT3が強く発現することを見いだしたが、IL-31による痒み誘導にSTAT3の活性化は必須ではないとの報告がある(Immunity 2020; 53: 371-383.e5)。同氏らはこのことを確認するため、感覚神経でSTAT3活性を欠損させたマウスを作製しIL-31を皮下投与したところ、マウスの引っかき行動は観察されなかった(図2)。感覚神経のSTAT3は、IL-31による痒み誘導に関与していることが示唆された。

図2.IL-31を投与したマウスの引っかき回数(STAT3欠損マウス)

50581_fig02.jpg

 そこで、感覚神経のSTAT3がIL-31受容体下流の痒み誘導シグナル伝達に関与しているかを検証するため、STAT3欠損により感覚神経の痒み関連分子の発現が変化していないか調べたところ、IL-31受容体の発現が減弱しているという予期せぬ結果を得た。このことにより、STAT3は一部の感覚神経がIL-31受容体を発現するメカニズムに関与していることが分かった。

 しかしこの検討では、IL-31受容体下流の痒み誘導シグナル伝達にSTAT3が関与しているかどうかは明らかにならなかった。そこで同氏らは、STAT3阻害薬を野生型マウスに投与し、IL-31が誘導する痒みに影響を及ぼすかを検討した。すると、阻害薬投与後にIL-31による感覚神経のSTAT3活性化が減弱し、IL-31が惹起する引っかき回数が有意に減少した(P<0.05)。一方、阻害薬投与によるIL-31受容体の発現低下は確認されなかった。以上のことから、STAT3はIL-31受容体下流の痒み誘導シグナル伝達に関連していることが示唆された。

炎症を誘発したSTAT3欠損マウスでは引っかき行動が強く抑制

 さらに髙橋氏らは、ビタミンD類似体であるMC903を含むエタノールをマウス耳介皮膚に塗布して炎症を誘導したマウスの引っかき行動についても検討した。角化細胞でのみIL-31受容体を欠損させたマウスでは対照マウスと同程度の引っかき行動が観察されたのに対し、感覚神経においてのみIL-31受容体を欠損させたマウスでは、皮膚炎に伴う引っかき行動が有意に減弱した。ただし、引っかき行動自体は依然残っていたことから、感覚神経においてはIL-31受容体の関与が認められたものの、IL-31受容体が関与しない痒みも存在することが示唆された。一方、感覚神経でのみSTAT3を欠損させたマウスでは、引っかき行動が強く抑制された(図3)。これらのことから、感覚神経のSTAT3は皮膚炎においてIL-31が誘導する痒みだけでなく、他の痒みにも重要な役割を果たしていることが示唆された。

図3.皮膚炎を誘導したマウスの引っかき回数

50581_fig03.jpg

(図1~3とも理化学研究所プレスリリースより)

安価かつ副作用が少ない新薬の開発に期待

 髙橋氏らはこれらの結果を受け、「炎症性の痒みに対するSTAT3阻害薬の開発が期待される。サイトカイン受容体に対する抗体と比べ、より多くの症例に有効かつ安価に治療できる可能性がある。またJAKの下流で働くシグナル伝達経路の一部のみを阻害するため、JAK阻害薬に比べ副作用の低減も期待できる」と結論している。

(編集部)