佐賀大学病院肝疾患センターセンター長の高橋宏和氏らは、日本人の大規模リアルワールドデータを用いて、肝機能に及ぼすSGLT2阻害薬の効果をDPP-4阻害薬との比較で検討。「SGLT2阻害薬はDPP-4阻害薬と比べ、さまざまな肝機能指標を改善することが確認された。SGLT2阻害薬は2型糖尿病患者に対して、肝線維症の予防も含めた肝保護作用をもたらす可能性がある」とDiabetes Obes Metab(2023年12月12日オンライン版)で報告している。

1年後のALTの変化量を比較

 2型糖尿病と肝疾患は緊密に関連している。2型糖尿病は、代謝機能不全に関連した脂肪性肝疾患(MASLD)を含む慢性肝疾患の独立した危険因子であり、MASLDは2型糖尿病の危険因子でもある。SGLT2阻害薬は血糖値改善効果に加え、肝機能を改善する可能性が示唆されておりエビデンスの蓄積が進んでいるが、これまでの報告は、サンプル数の小さいものであったり、短期間の検討であったり、MASLDや肝線維症の高リスク患者にフォーカスしたものが多い。

 高橋氏らは今回、大規模リアルワールドデータを基に、日本人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の肝機能に対する効果を検討した。

 用いたのは一般社団法人健康・医療・教育情報評価推進機構が維持管理しているデータベースで、2015年1月以降にSGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬を1回以上処方された2型糖尿病患者約14万6,000例の匿名化された医療データを対象とした。組み入れ基準に合致しない症例を除外し、最終的にSGLT2阻害薬群1,078例、DPP-4阻害薬群7,499例を対象に傾向マッチングを行った結果、SGLT2阻害薬群955例、DPP-4阻害薬群3,063例がマッチドコホートとして抽出された。

 主要評価項目はindex dateから1年後のALTの変化量。副次評価項目はFIB-4 index、AST、GGT、アルブミン、HbA1cなどの変化量とし、SGLT2阻害薬群とDPP-4阻害薬群における各評価項目についてウェルチのt検定を行った。

ALT、FIB-4 indexは有意に低下、アルブミンは有意に増加

 Index dateから1年後のALT変化量(平均値)はDPP-4阻害薬群の-4.59(95%CI -5.58~-3.60)に対し、SGLT2阻害薬群は-7.63(同-9.11~-6.15)、平均差(MD)-3.35(同-4.82~-1.26)とSGLT2阻害薬群で有意に大きかった(P=0.0008)。

 GGT(MD -5.40、95%CI -8.52~-2.28、P=0.0007)、FIB-4 index(同-0.22、-0.41~-0.003、P=0.0218)もSGLT2阻害薬群で有意に低下した。ASTは、有意差はなかったがSGLT2阻害薬群で低下幅がより大きかった(同-1.47、-2.99~0.06、P=0.591)。アルブミンに関してはSGLT2阻害薬群で有意な増加を認めた(同0.06、0.04~0.09、P<0.0001)。

 HbA1c(MD 0.05、95%CI -0.005~0.14、P=0.3630)、血小板数(同0.82、-0.78~2.41、P=0.3149)、トリグリセライド(同4.75、-2.84~12.33、P=0.2198)の変化量は両群で差がなかった。

肝細胞死の抑制、異常な酸化・免疫反応の緩和などに寄与

 高橋氏らは「今回の結果は、糖新生や肝糖産生、β酸化やアディポネクチンの増加といったSGLT2阻害薬に特異的な効果で説明できるかもしれない」と指摘。「SGLT2阻害薬は肝細胞の死を抑制し、異常な酸化・炎症反応を弱め、アルブミン合成の維持/改善に寄与している可能性がある」と考察。「DPP-4阻害薬と比べSGLT2阻害薬は2型糖尿病患者のさまざまな肝機能指標を改善させることが確認された。SGLT2阻害薬は、2型糖尿病患者の肝機能改善という新たなベネフィットを提供する治療選択肢となるかもしれない」と結論している。

 研究の強みとしては、①最終的なマッチドコホートが4,000例以上という大規模なリアルワールドデータを利用したこと、②治療1年後のさまざまな肝機能マーカーを評価したことーを挙げる一方、日本中の全ての病院やクリニックを含むデータベースでないことや、十分なフォローアップがなされていない患者が含まれている可能性、BMIや線維化スコア(MFS)を含む幾つかの変数に関しては傾向スコアマッチングが行われなかったことなどを限界としている。

 (木本 治