胆石症は良性のケースが大半を占めるにもかかわらず、英国などでは外科的手術が標準治療とされている。しかし、術後の合併症リスクや疼痛、医療費などの観点から、保存的治療と手術で患者のQOLや質調整生存年(QALY)にどの程度の差があるのかが疑問視されている。英・NHS GrampianのIrfan Ahmed氏らは、合併症のない胆石症患者に対する両治療法による患者QOLやQALYを多施設並行群間実用的ランダム化優越性試験で検討。結果をBMJ(2023: e075383)に報告した。
434例を18カ月追跡
胆石症は最も一般的な消化器疾患の1つで、有病率は6~25%、女性に多く加齢によりリスクが上昇することが知られている。英国および北米では、有病率の上昇と早期発見、標準治療としての腹腔鏡下胆嚢摘出手術の確立を受け、1950~90年代に手術件数が急増した。しかし、胆石症はほとんどが無症状で進行度も遅く、症候性例でも合併症の発生率は1〜3%程度とされる。
英国の大規模前向き研究では胆嚢摘出術後30日以内の合併症発生率は10.8%、疼痛および腹部症状は40%で認められた。イングランドにおける2018/19年の胆囊摘出術6万1,000件に基づくと、医療費は2億ポンド(約370億円)、合併症は6,600人、疼痛は2万4,400人と推計され、医療資源に多大な影響をもらたすと考えられる。そこでAhmed氏らは、症候性胆石症に対する保存的治療または腹腔鏡下胆囊摘出術による患者QOLやQALYについて、多施設並行群間実用的ランダム化優越性試験C-GALLで検討した。
対象は2016年8月〜19年11月に英国の20施設で胆囊摘出術の適応と判定され合併症がない18歳以上の胆石症患者434例。経過観察および疼痛に対する鎮痛薬処方が中心の保存的治療を行う保存群(217例)と腹腔鏡下胆囊摘出術を行う手術群(217例)にランダムに分け、3、9、12、18カ月時のQOLおよびQALYなどを比較した。QOLは36項目から成る心身の健康度を評価するSF-36(0〜100点)を用いた。妊婦や上腹部開腹術例などは除外した。
両群の主な背景は、平均年齢が保存群50.4歳、手術群50.5歳、女性がそれぞれ171例(78%)、170例(78%)、白人が185例(85%)、188例(87%)。胆囊壁肥厚は正常が131例(60%)、120例(55%)だった。
保存群と手術群でQOLやQALYは同等
18カ月後までに、保存群の54例(25%)、手術群の146例(67%)が腹腔鏡下胆囊摘出術を受けた。18カ月時のSF-36の平均スコアは、保存群が49.4点〔標準偏差(SD)11.7点〕、手術群が50.4点(同11.6点)と差はなく、肉体的苦痛スコアのROC曲線下面積(AUC)は両群で同等だった(平均差0.0、95%CI -1.7〜1.7、P=1.00)。24カ月後まで追跡できた保存群203例、手術群205例でも、結果はほぼ同じだった(同-0.1、-1.8〜1.6、P=0.94)。
一方、医療費負担は手術群に比べ保存群で小さく(平均差-1,033ポンド、95%確信区間 -1,413〜-632ポンド)、QALYに両群で差は認められなかった(同-0.019、-0.06〜0.02)。18カ月間の合併症発生率は、保存群32例(15%)、手術群44例(20%)と有意差がなかった(相対リスク0.72、95%CI 0.46~1.14、P=0.17)。
以上を踏まえ、Ahmed氏らは「合併症のない成人症候性胆石症患者において、腹腔鏡下胆囊摘出術の保存的治療に対する短期的な優越性は示されなかった。保存的治療は費用効果にも優れることから、手術の代替案となりうる」と結論。より長期にわたる検証の必要性を付言している。
(編集部)