近年、情報通信技術の進歩や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によりオンライン診療が普及、対面での会話が多い精神科診療への導入も増加している。これまで精神科疾患に対するオンライン診療の効果については、単一疾患を対象とした報告はあるものの、複数の疾患を同時に検討した研究は少なく、長期的な治療効果に関する報告はほとんどない。慶應義塾大学ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座特任教授の岸本泰士郎氏らJ-PROTECT共同研究グループは複数の精神疾患を対象に、オンライン診療+対面診療の併用と対面診療単独の効果を比較する多施設ランダム化比較試験(RCT)を実施。対面診療単独に対するオンライン診療併用の非劣性が示されたとの結果をPsychiatry Clin Neurosci2023年12月15日オンライン版)に報告した。

うつ病、不安症群、強迫症および関連症群の199例が対象

 岸本氏らは、2021年4月~22年2月にJ-PROTECTに参加する19の精神科医療施設を受診した18歳以上の抑うつ障害(うつ病)、不安症群、強迫症および関連症群の患者を対象に、対面診療単独に対するオンライン診療併用の非劣性を検証するRCTを実施。組み入れ基準は、『精神疾患の分類と診断の手引き 第5版』のテキスト改訂版(DSM-5-TR)の診断基準を満たし、6カ月以上の継続的な治療を要しインターネットによるビデオ通話環境があり、オンライン診療が可能な程度に精神状態が安定し意思表示ができる者とした。

 24週の標準治療を実施した後、対面診療とオンライン診療を併用(50%以上をオンラインで行う)する群115例(うつ病53例、不安症群34例、強迫症18例)と、対面診療単独群94例(同45例、32例、17例)にランダムに割り付け、12週時と24週時に評価した。

 主要評価項目は24週時における36項目の精神的QOLサマリースコア(SF-36 MCS)、副次評価項目は36項目の身体的QOLサマリースコア(SF-36 PCS)、全ての原因による試験の中止、アライアンスの質(WAI)、治療に対する満足度(CSQ)、うつ病のハミルトンうつ病評価尺度17項目(HAMD-17)スコア、不安症群のハミルトン不安評価尺度(HAM-A)スコア、強迫症および関連症群のエール・ブラウン強迫尺度(Y-BOCS)スコアなどとした。

費用、通院時間ではオンライン診療が有用

 オンライン診療併用群の98例、対面診療単独群の90例が試験を完遂した。解析の結果、24週時点のSF-36 MCSスコアはオンライン診療併用群が48.50±9.57点、対面診療単独群が46.68±10.58点で、平均群間差は1.82(95%CI -1.12~4.77、P<0.0001)と非劣性マージン(-5)を上回り、対面診療単独に対するオンライン診療併用の非劣性が示された。

 副次評価項目についても、12週時および24週時のSF-36 PCSスコアとWAI、12週時のSF-36 MCSスコア、CSQ、全原因の試験中止に両群で有意差はなかった。

 平均通院時間はオンライン診療併用群の方が対面診療単独群よりも短く(42.9±40.8分vs. 79.2±61.6分、P<0.001)、通院費の中央値はオンライン診療併用群で低額だった〔168.9円(四分位範囲0~793.3円) vs. 500.0円(同140.0~1,266.7円)、P = 0.0104〕。HAMD-17、HAM-A、Y-BOCSで評価した12週時および24週時の重症度は、12週時のHAMD-17(オンライン診療併用群8.8±1.5点 vs. 対面診療単独群6.0±1.6点、P=0.03)を除き両群に有意差はなかった。

 今回の研究について、岸本氏らは「うつ病、不安症群、強迫症および関連症群の患者において、24週の対面診療と双方向ビデオを用いたオンライン診療の併用は、対面診療単独に対し非劣性であることが示された」と結論。「今後の研究では、より長期間の追跡調査と疾患別の有効性の検証が望まれる」と展望している。

服部美咲