コミック『宇宙兄弟』にて、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の研究に挑む登場人物・伊東せりかにちなみ、同疾患の研究費を助成する「せりか基金」賞の第7回授賞式が昨年(2023年)12月15日に東京で開催された。今回の受賞者は、東京医科歯科大学核酸・ペプチド創薬治療研究センター/脳神経病態学分野の三浦元輝氏ら4人(写真)で、各人に同基金賞の助成金総額1,000万円が交付された。(関連記事「『宇宙兄弟』発ALS研究基金、研究者6人に助成」)

ALSの病因蛋白質TDP-43に関連する研究を選定

 今回の1位受賞者である三浦氏の研究テーマは、「TDP-43タンパク質の多量体化と凝集を制御する新規アプタマー構造の探索」。同氏は神経細胞内でALSの病因蛋白質TDP-43と特異的に結合し、生理的で凝集しづらい同蛋白質の2量体を誘導する新規機能を持った核酸医薬(アプタマー)の開発に取り組んでいる。

 2位受賞者である名古屋大学環境医学研究所病態神経科学分野の大岩康太郎氏が取り組む研究テーマは、「TDP-43の生理的多量体化に着目した筋萎縮性側索硬化症の病態解明と新規治療標的の同定」。TDP-43が複合体を形成しない状態となる「単量体化」という現象がALSの病態に関連しているとの知見を報告し、治療標的の同定を目指しているという。

 3位受賞者である長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)准教授の城谷圭朗氏は、「TDP-43伝播モデルマウスの作製とTREM2によるALS病態促進メカニズムの研究」をテーマに設定。ALS患者脳の構造に非常に近い組み換え体TDP-43を用いてALSモデルマウスを作製した上で、同氏らが開発したTREM2 R47H(ALSの危険因子)ノックインマウスにTDP-43を導入。ALS病態におけるTREM2の役割を解析し、治療薬開発につなげようとしている。

「直鎖状ユビキチン鎖を標的とした筋萎縮性側索硬化症の新規治療法探索」を研究テーマとしている4位受賞者、大阪公立大学大学院医化学准教授の及川大輔氏は、TDP-43を含む各種凝集体の形成を制御する新因子ユビキチンに注目。直鎖状ユビキチン鎖阻害薬の有効性を動物モデルなどで検証し、新規治療法の確立を図っている。

 これらの研究内容に対し、1位および2位受賞者には300万円、3位および4位受賞者には200万円の助成金が交付される。

作品は終わっても基金の活動は終わらない

 また授賞式では、同基金の累計寄付金額が1億円を突破したことを受け、ビデオメッセージにて『宇宙兄弟』作者の小山宙哉氏が感謝の意を表明。同作の連載が1、2年後には終了する予定であることに言及しつつ、「連載が終了しても、ALSが治る病気になるまでせりか基金の活動は続いていくと思うので、引き続き協力をお願いしたい」と呼びかけた。

写真. 第7回せりか基金賞受賞者(左から三浦氏、大岩氏、城谷氏、及川氏)

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(陶山慎晃)