日本では毎年約8万件の心臓突然死が発生している。心停止からの救命には、その場に居合わせた目撃者(バイスタンダー)による迅速な心肺蘇生法(CPR)が重要となる。しかし、一般市民による自動体外式除細動器(AED)を用いた除細動の実施率(以下、AED実施率)は5%未満と低い。日本AED財団は1月19日、無料のオンラインアプリによりAEDを用いた救命活動が短時間で学習できるデジタルトランスフォーメーション(DX)教材「救命コーチングアプリ Liv(リブ) for All」をリリースしたと発表した。

心肺蘇生実施率5割に対し伸び悩む

 2004年に非医療従事者の一般市民にもAEDによる除細動が認められて以来、2022年までの19年間に「市中で利用可能なAED(PAD)」として累計127万7,024台が販売されている〔医療機関用20万7,416台、消防機関用2万9,563台〕。厚生労働省によると、販売台数と耐用期間から推定される国内のPAD設置台数(2022年末)は約67.6万台に上るという。

 市民によるAED実施率は、設置台数の増加とともに漸増してきた。しかし、総務省消防庁によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下の2020~21年は応急手当講習受講者が大幅に減少。市民によるAED実施率も低下し、2021年は4.1%と2014年並みの水準まで落ち込んだ()。バイスタンダーCPRの実施率が50%程度であるのと比べ、伸び悩む状況が続いている。

図. 一般市民によるAED実施率の推移

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(総務省消防庁「2022年版 救急救助の現況」を基に編集部作成)

短時間で救命処置を体験学習

 日本AED財団は、市民によるAED実施率の向上を図る目的で、無料オンラインアプリ「救命コーチングアプリLiv for All」を開発。1月19日にリリースした。アプリはAEDを用いた救命処置を、スマートフォンまたはタブレット端末により短時間(15分程)でオンライン学習できるもの。自らの端末で119をダイヤルする、心停止者の正しい位置にAEDを装着する、カメラ機能を利用したモーションキャプチャにより胸骨圧迫を正しいテンポで行えているかを自動判定するなど、DX教材ならではの体験学習が可能()。同財団専務理事の石見拓氏は、胸骨圧迫の学習について「クッションなどで十分だが、『PUSH&AED体験セット』『あっぱくんライト』などの教材を用いることで、胸骨圧迫の適切な深さもマスターできる」と付言している。

図. モーションキャプチャで胸骨圧迫のテンポを判定

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(出典:日本AED財団発表資料)

 アプリ開発の背景として、同氏らは「救命講習の展開に当たっては、学校をはじめとした開催者側の負担が課題となっている。当財団の取り組みもあって、現在、中学校・高校においては救命処置講習が必修化されたが、全ての学校で実施されているわけではない。小学校ではまだ学習指導要領に入っていない。教員の準備時間不足、教材の不足が大きな障壁となっている」と指摘。「誰でもオンラインで参加できるLiv for Allに続き、来年度(2024年度)には学校を対象としたLiv for Schoolのリリースも予定している。AEDの普及をデジタル面から支えていきたい」と展望している。

(小田周平)