医学部トップインタビュー

離島やへき地も含めた県民の医療へ貢献
~島しょ県の特徴生かした医学教育に取り組む-琉球大学医学部~

 日本の総合大学では最南端に位置する琉球大学は、那覇市から車で30分ほどの沖縄県中部にある。医学部が設立されたのは1981年と国立大学では日本で最も新しい医学部だ。広大なキャンパスと一年中温暖な気候に恵まれているなど、都会とは異なる魅力を持つ。沖縄県は南北約400キロ、東西約1100キロにわたる海域に、160にも及ぶ離島を有する国内でも有数の島しょ県であり、琉球大学は離島やへき地を含む地域住民の医療を担うとともに、その特徴を生かした医学教育にも取り組んでいる。その一方で、「医師不足は沖縄県が抱える医療の最重要課題の一つです」と筒井正人医学部長は話す。

筒井正人医学部長

筒井正人医学部長

 ◇医学部設立の背景に医師不足の解消

 戦後の沖縄は本土と比較して人口に占める医師の数が少なく、医師不足という大きな問題を解消する目的で設立されたのが琉球大学だ。当時と比べて全般的な医師の確保は進んできたものの、専門医の数に関してはいまだ途上であり、「厚生労働省は沖縄における医師の数は足りていると言いますが、まだ十分ではありません。沖縄県は国内でも有数の島しょ県で、特に宮古島や石垣島といった離島および北部地域における医師不足は沖縄県が抱える医療の最重要課題の一つです」と筒井医学部長は強調する。

 琉球大学医学部では沖縄県の修学支援制度の下、2009年から地域枠の学生を7人受け入れ、現在の地域枠の入学定員は17人となっているが、「現在、地域枠の1期生が卒後8年目の医師となり、ようやく沖縄県の地域医療への貢献が始まったところです。沖縄県が指定する離島および北部地域の医療機関への医師派遣は19年度は3人、20年度は5人、21年度は9人と年々増えており、22年度には21人と大幅に増加する予定となっています」

 一方、診療科の偏在に関しても地域枠同様、「指定診療科医師確保修学資金」と呼ばれる沖縄県の修学支援制度が用意されている。この制度では指定医療機関において、小児科、外科、産婦人科、泌尿器科、脳神経外科および総合診療科といった指定診療科への勤務の意思を有する学生が対象となる。

 「沖縄県には二つの奨学金があり、地域枠に対しては入学時から6年間、診療科偏在に対しては5年生と6年生が支給の対象となっています」

琉球大学医学部(上原キャンパス)入口

琉球大学医学部(上原キャンパス)入口

 ◇21年の国家試験合格率は過去10年間で最も良い結果に

 琉球大学医学部の前身は琉球大学保健学部である。

 「21年3月時点の卒業生は医学部3487人。そのうち沖縄県で医師として勤務している割合は46%です。一方、保健学科(保健学部時代を含む)の卒業生は2831人で、県内で勤務している割合は看護師約10%、助産師20~30%、保健師では約40%と多くの卒業生が沖縄の医療に貢献しています」

 18年に日本医学教育評価機構(JACME)による認証を受けた。琉球大学医学部の21年の国家試験合格率は医学科が95.5%、保健学科では100%と、ここ10年間では最も良い成績を収めた。その背景について筒井医学部長は以下の点を指摘する。

 「科目ごとの卒業試験を廃止して、総合的な学力向上を図るため12年度の13年1月から5年次の総合試験Ⅰ、13年度からは6年次の総合試験Ⅱ・Ⅲを導入しました。それによって早い時期から国家試験に向けた勉強を開始するようになったことや、学生たちの姿勢が大きいと思います。また、6年次の11月には国家試験のための集中講座を数日ですが行っているのも影響しているのではないでしょうか」

 琉球大学医学部と琉球大学病院は、3年後の25年に宜野湾市西普天間住宅地区跡地への移転が決まっている。同移転計画は、駐留軍用地跡地利用の先行モデルとして国家プロジェクトとして進められている事業で、移転先は元駐留米軍の住宅地だった場所だという。沖縄の特性を踏まえ、医療の国際性、離島やへき地での医療体制の確保を目的に沖縄健康医療拠点構想として推進されている。

 「新キャンパスにおいても、当医学部の使命である『医療人材および指導者の育成』『沖縄県の地域医療・高度先進医療・国際保健医療への貢献』『医学研究の推進』に取り組んでいきたいと思っています」

 ◇離島住民のゲノム解析やヒト組織の提供体制整備など幅広い分野で貢献

 琉球大学医学部では文部科学省の支援を受けて、離島住民を対象にしたヒトゲノム研究を行い、研究成果が21年「Molecular Biology and Evolution」誌に掲載された。この研究は宮古諸島の住民1240人のゲノム解析を行ったもので、住民が宮古島北東部、宮古島南西部、池間/伊良部島という三つの異なる集団に分類されることを明らかにした。宮古諸島のような比較的狭い地域の住民が、異なる遺伝集団から構成されている例は世界的にも類を見ないものだという。

 さらに琉球大学は医学の発展のための体制づくりにも力を入れている。その一つが再生医療への取り組みだ。これまで日本では、ヒト組織・細胞などの産業利用に関する明確なルールが無く、再生医療発展のハードルとなっていた。そこで日本医療研究開発機構(AMED)の委託を受け、大学規制の改正および新規制の制定を行い、20年に日本初となる「産業利用倫理審査委員会」を設置。「再生医療等製品」の原料となるヒト組織を製薬企業などに提供しやすい体制を整備した。同委員会では、既存の倫理委員会とは別にヒト組織を産業目的で使用することを専門に審査する役割を担っている。また、同年には琉球大学と企業が協働してプロジェクトを推進できる体制も整えた。大学の敷地内には、既に承認を得た企業の再生医療研究センターが設置され、承認に向けて、現在六つの製薬企業と共同で事業を進めている。

日本トップクラスの設備を誇る「おきなわクリニカルシミュレーションセンター」

日本トップクラスの設備を誇る「おきなわクリニカルシミュレーションセンター」

 ◇日本一のシミュレーションセンターを導入

 さまざまな教育場面で活用できるよう導入しているのが「おきなわクリニカルシミュレーションセンター(愛称:ちゅらSim)」。同センターは、医師不足や医師の偏在問題などの解決への取り組みとして、沖縄県や沖縄県医師会、琉球大学が立ち上げたプロジェクトで、沖縄県の地域医療再生基金から寄付を受けて12年に完成した。

 「ちゅらSimは、日本でもトップクラスの設備を誇っていると思います。高額なシミュレーション機器が導入されていて、正常から異常まで多様な心音・呼吸音を再現する胸部聴診トレーナー、薬剤などの治療行為で血圧や脈、呼吸状態を変化させることができる人体モデル、胸骨圧迫(心臓マッサージ)やAED(体外式自動除細動器)の使用で救命の練習ができるシミュレーターがあり、病態に応じた処置を体験することができます」

 その他にも、縫合手技や筋肉注射、酸素吸入をはじめ、経管栄養、エコーガイド下による中心静脈挿管、胸腔(きょうくう)穿刺、動脈採血、成人および小児の心肺蘇生法(CPR)トレーニングなど、100種類以上にも及ぶシミュレーターや医療関連機器が整備されている。

 「離島などで勤務している医師は、現在ではオンラインを含めて有形無形のサポートがあるものの、基本的には一人で判断して全てを診なければなりません。そのため卒前・卒後教育の一環として、このちゅらSimを活用してもらっています」

 ちゅらSimでは、県内全ての医療者および医療系の学生を対象とした教育のプログラム開発や実践、研究、さらには指導者向けに指導法を習得するプログラムも行っている。

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