中国・Nanjing University of Chinese MedicineのYu Qiao氏らは、勃起障害(ED)患者と健常者の腸内細菌叢の組成をさまざまな手法で分析した結果、ED患者に特徴的な細菌叢組成の存在が明らかになったとMicrob Biotechnol(2024年1月16日オンライン版)に報告した。
16S rRNA解析で腸内細菌の種類や分布を推定
心血管疾患や糖尿病などを含む多くの炎症性疾患に腸内細菌叢が関連することが報告されているが、こうした炎症性疾患はEDの危険因子としても知られている。そこでQiao氏らは、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)とED発症にも関連があるとの仮説を立て、健常者との比較を試みた。
対象はED患者53例、正常な性機能を有する32例(対照群)で、両群の背景(年齢、BMI、高血圧、糖尿病など)に差はなかった。
全例から糞便検体を採取し、腸内細菌叢のDNAを抽出。16S rRNA解析により、菌種を推定した。操作的分類単位(operational taxonomic units;OTUs)のデータを分析したところ、両群に共通のOTUsが619個、ED群と対照群に特異的なOTUsがそれぞれ約140個と約56個、同定された。
生物多様性に関する複数の評価指標を用いてα多様性を分析したところ、ED群では対照群に比べ、種の均等度を表すShannon indexが有意に高かった(P=0.04082)。
β多様性に関しては、Bray-Curtis距離に基づく多次元データを可視化するため、主座標分析(Principal Coordinate Analysis;PCoA)を行ったところ、両群の細菌集団(bacterial community)に有意な違いのあることが示唆された(R=0.860、P=0.009)。非計量的多次元尺度法(NMDS)でも、対照群とED群の差が確認された(R=0.0860、P=0.009)。
EDの予防と治療における新しいアプローチとなる可能性
両群における主な腸内細菌叢を門(phylum)レベルで比較したところ、対照群に比べED群では Bacteroidota(P=0.01727)、Proteobacteria(P=0.04453)、Fusobacteriota(P=0.00774)、Desulfobacterota(P=0.006968)、Verrucomicrobiota(P=0.0343)の相対的存在量(relative abundance)が有意に多かった。属(genus)レベルでは対照群のBifidobacteriumの相対的存在量がED群に比べ有意に多かった(P=0.00306)。
以上の結果に基づきQiao氏らは、ランダムフォレスト(random forest)アルゴリズムを用いたED患者の予測モデルを提案。訓練コホートおよび検証コホートで検証したところ、受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)はそれぞれ0.719(95%CI 0.509~0.929)、1.000(同1.000~1.000)と、ED患者と健常者を正しく判別できる可能性が示唆された。
最後に同氏らは「腸内細菌叢とEDとのつながりが示された。腸内のdysbiosisは、腸管バリアや心血管系、メンタルヘルスに影響を与え、EDの発症に関与している可能性がある。今回の検討から、ED発症の鍵となる幾つかの細菌叢が同定された。腸の微生物生態学(intestinal microecology)はEDの予防および治療において、新しいアプローチとなるかもしれない」と結んでいる。
(木本 治)