自殺は児童思春期の主要な死因の1つであり、その危険因子として精神疾患が挙げられる。これまで、児童思春期における精神症状の経時的な変化パターン(軌跡)と自殺の関連を検討した研究は少なく、自殺に強く関連する精神症状は特定されていない。東京大学大学院臨床神経精神医学講座の宇野晃人氏、准教授の安藤俊太郎氏らは思春期の健康・発達コホート研究(東京ティーンコホート)の参加者を対象に、複数の精神症状の経時的軌跡を包括的に検討。持続する引きこもり症状および身体不調が自殺と強く関連するとの結果をJAMA Netw Open2024; 7: e2353166)に報告した。(関連記事「思春期のいじめ被害で精神病リスク上昇」)

東京都の児童約3,000例が対象

 東京ティーンコホートは、東京都の3自治体(世田谷区、三鷹市、調布市)で2002年9月~04年8月に出生した児童と養育者を対象に、思春期における心身の発達を調査する前向き出生コホート研究。ベースライン調査は2012年に開始され、その後10、12、16歳時に子どもの行動チェックリスト(CBCL)を用いて養育者に8種類の精神症状を評価してもらい、児童の自殺念慮は16歳時に本人に対する質問票で評価した。今回は、10、12、16歳時に2回以上精神症状の評価を受けた児童2,780例(女性1,306例、47.0%)を解析対象とした。

 自殺念慮は、「あなたは現在、自分が生きていてはいけないと感じますか」との質問に対する回答で、自殺念慮なし群(「ちがう」および「ややちがう」)と、自殺念慮あり群(「そうだ」および「まあそうだ」)に分けた。

 精神症状は、引きこもり症状(0~18点)、身体不調(0~18点)、不安抑うつ症状(0~28点)、社会性の問題(0~16点)、思考の問題(0~14点)、注意の問題(0~22点)、非行的行動(0~26点)、攻撃的行動(0~40点)の8つの下位尺度について、潜在クラス成長分析(LCGA)を用いて軌跡に基づくクラスタリングを実施。ロジスティック回帰分析により自殺念慮との関連を検討した。変数は、性、世帯収入、主な養育者との別居、家族との死別、母親または父親の精神的健康問題、母親または父親の飲酒、いじめ被害の経験、自殺念慮の経験とした。

引きこもりで2.4倍、身体不調で3倍

 自殺念慮に関するデータが得られた1,920例のうち158例(8.2%)が自殺念慮ありに分類された。クラスタリングの結果、8つの精神症状の軌跡は図のように分けられた()。

図. 精神症状の軌跡に基づくクラスタリングの結果

52312_fig01.jpg

(東京大学プレスリリースより)

 解析の結果、持続的な引きこもり症状〔オッズ比(OR)1.88、95%CI 1.10~3.21〕、身体不調の増加(同1.97、1.16~3.34)は、他の症状の軌跡と交絡因子を調整後も自殺念慮との有意な関連が認められた。自殺念慮を有する割合は、引きこもりなし例に比べ持続例で2.4倍〔1,639例中112例(6.8%) vs. 281例中46例(16.4%)〕、身体不調なし例にくらべ増加例で3倍だった〔1,751例中123例(7.0%) vs. 169例中35例(20.7%)〕。

他の精神疾患と独立した関連

 自殺念慮あり群において、「そうだ」と回答した35例に限定した感度分析でも、結果は主解析と一貫していた。また16歳時の精神症状と自殺念慮との横断的関連を検討したところ、引きこもり症状(OR 1.57、95%CI 1.28~1.92)、社会的問題(同0.69、0.51~0.93)が自殺念慮と有意な関連を示した一方で、身体不調との関連は認められなかった(同1.10、0.96~1.25)。

 以上の結果について、宇野氏らは「児童思春期における持続的な引きこもり症状および身体不調の増加は、自殺念慮のリスク上昇と関連していた。また引きこもりは不安障害、うつ病など多くの精神疾患と併存するが、引きこもりと自殺念慮にはそれらの精神疾患と独立した関連が示唆された」と結論。その上で「引きこもり症状や身体不調は、不安抑うつ症状などと比べ周囲が気付きやすい。思春期の児童と関わる幅広い人々がこれらの症状に注意を払い、自殺予防のための支援につなげていくきっかけになることが期待される」と展望している。

服部美咲