国立がん研究センター東病院副院長/呼吸器内科長の後藤功一氏は、ヤンセンファーマが11月29日に開催した記者発表会で、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子エクソン20挿入変異(EGFRex20ins)陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する新たな治療戦略について解説。「抗EGFR/間葉上皮転換(MET)二重特異性抗体アミバンタマブ(商品名ライブリバント点滴静注)+化学療法の併用療法は、希少な肺がんであるEGFRex20ins陽性NSCLCの新たな標準治療となった」と述べた(関連記事「EGFRエクソン20挿入変異陽性の切除不能進行・再発NSCLC薬を発売」)。
EGFR-TKI治療による効果が乏しく、生存率は極めて低い
EGFRex20insは、EGFR変異を有する肺がん患者の9%、NSCLC全体の1~2%に見られる稀少ながんである。EGFR変異のcommon mutationであるエクソン19欠失およびエクソン21L858R置換と比べてアデノシン三リン酸(ATP)結合部位が狭いため、競合的に作用するEGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の治療効果が乏しいことが知られる。そのため、従来の初回標準治療はプラチナ製剤併用化学療法であり、5年生存率は8%と極めて低いことが課題となっていた。
アミバンタマブは、①EGFRおよびMETに結合することで、リガンドの双方への結合および増殖シグナルを阻害する、②ナチュラルキラー(NK)細胞を呼び寄せ、がん細胞を攻撃し破壊する〔抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性〕―作用により、抗腫瘍効果を発揮する(図)。
図. アミバンタマブの作用機序
(ヤンセンファーマメディアセミナー資料より)
アミバンタマブの有効性および安全性を検討した第Ⅰ相試験CHRYSALISでは、単剤での全奏効率(ORR)は40%と良好な結果が得られた他、化学療法との併用においても安全性および抗腫瘍活性が示されている(J Clin Oncol 2021; 39: 3391-3402)。
無増悪生存、ORRともに良好な結果
第Ⅲ相国際ランダム化比較試験PAPILLONでは、未治療でEGFRex20ins陽性の進行NSCLC患者を、アミバンタマブ静注+化学療法を行う併用群(153例)と化学療法群(155例)に1:1でランダムに割り付け、有効性および安全性を評価した。
その結果、無増悪生存(PFS)中央値は、化学療法群の6.7カ月に対し併用群で11.4カ月、ORRはそれぞれ47%、73%といずれも併用群で有意に高かった(全てP<0.0001)。
また、中間解析時点における全生存(OS)中央値は、化学療法群の24.4カ月〔95%CI 22.1カ月~評価不能(NE)〕に対し、併用群ではNE(同NE~NE)と有意差はないものの良好な傾向が示された(ハザード比 0.67、95%CI 0.42~1.09)。
重篤な有害事象は化学療法群で31%、併用群で37%、死亡に至った有害事象はそれぞれ3%、5%と両群で同等で、有害事象による投与中止率は10%、24%だった。併用群の主な有害事象は好中球減少症(59%)、爪周囲炎(56%)、皮疹(54%)、貧血(50%)、infusion reaction(42%)などだった(関連記事「amivantamabが非小細胞肺がんに有効」)。
これらの結果を踏まえ、今年(2024年)9月にアミバンタマブ+化学療法の併用療法はEGFRex20ins陽性で切除不能な進行・再発NSCLCを効能効果として承認を取得。11月に発売された。
また、日本肺癌学会編『肺癌診療ガイドライン2024年版』では、Ⅳ期NSCLCにおけるEGFRex20ins陽性例に対する一次治療として「カルボプラチン+ペメトレキセド+アミバンタマブ併用療法を行うよう強く推奨する」(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:B)と記載された(関連記事「肺がんGL改訂、EGFR変異陽性への選択肢拡大」)。
以上を踏まえ、後藤氏は「アミバンタマブ+化学療法は、EGFRex20ins陽性NSCLCに対する新たな標準治療となった」と説明。「肺がん治療の際には遺伝子変異の有無を確認し、EGFRex20ins陽性が判明した場合は、アミバンタマブの使用を検討することが重要となる」とまとめた。
(編集部・植松玲奈)