インタビュー

必要なのは刑罰ではなく支援
コカイン使用のピエール瀧容疑者
~依存症専門医・松本俊彦氏が訴え~

 俳優でミュージシャンのピエール瀧容疑者がコカイン使用容疑で逮捕され、出演していたドラマを降板、CMが中止になるなど波紋が広がっている。コカインは心身にどのような影響があり、覚せい剤を含めた薬物ととどのように向き合えばよいのか。インタビューに応じた専門医、松本俊彦氏は過度な社会的制裁は回復を妨げると警鐘を鳴らすとともに、「必要なのは刑罰ではなく支援」と強調した。

NHK大河ドラマ「いだてん」の新たな出演者発表会見に出席したピエール瀧=2017年11月01日 、東京都渋谷区のNHK放送センター 【時事】

NHK大河ドラマ「いだてん」の新たな出演者発表会見に出席したピエール瀧=2017年11月01日 、東京都渋谷区のNHK放送センター 【時事】

 ◇植物由来で作用時間が短い

--コカインはどのような薬物

 覚せい剤と同じで中枢神経興奮薬で使うと元気が出たり、眠気が覚めたりする。覚せい剤は化学的に造られたものだが、コカインはコカの葉から成分を抽出して精製。植物由来で作用時間が短く、終わった後にすぐに再び使ってしまうこともある。

 お金持ちのドラッグと言われたが、樹脂で固めて加熱吸引する通称「クラック」は価格が安く、乱用が広がった。一過性の元気を出したり、パーティーで騒いだり、テンションを上げるためだろうが、重度な常用者は普通のテンションを保つため使うようになる。

 ◇才能が湧くことはない

--創造性を求められる人が使用すると聞く

 才能のない人が使っても何もでてきません。薬を使って作品を作るのはドーピングだという人がいるが、規制がなかった時代に坂口安吾さん、太宰治さんはヒロポン(戦後広まった覚せい剤)を使っていたし、国文学者の折口信夫さんはコカインを常習していたことで有名。坂口さんは東大病院に入院したほどだ。彼らを教科書に載せるべきでないのか。

 海外でコカインを使っていたミュージシャンが作った作品はどうなるのか。マイルス・デービスもジョン・コルトレーンもみんなダメとなってしまう。(コカインのおかげで曲ができたと)誤解しないでほしい。

インタビューに応える松本俊彦氏=2019年3月、東京都内【時事】

インタビューに応える松本俊彦氏=2019年3月、東京都内【時事】

 ◇「薬物」教育は逆効果も

--ピエール瀧容疑者は20代から使っていた。依存していたのか。そうではないのか

 分からないが、そういう(社会生活に支障をきたさず使い続けている)薬物乱用者はたくさんいる。覚せい剤も同じ。薬を一回使ったら依存症になるとか、廃人になることはない。そうなる人もいるが、アルコールを飲む人が全員、依存症になることはないのと同じ。

--薬物は危険なのでは

 薬物の恐怖を極端な形で教育された子どもたちが初めて使うと、受けてきた教育がうそだとすぐ分かる。言われているほど気持ちよくもなく、怖いこともない。拍子抜けの初体験をして逆に常用に走り、依存症になる危険もある。

 依存症の人は道に外れたことをした罪悪感があり、恥ずかしさから、なかなか支援につながらない。偏見を解くことが、本人にや家族を救う道だが、怖さをあおることで生じるのは、回復しようとする人への偏見だ。


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