腸動かす細胞が無い「ヒルシュスプルング病」
多くは生後すぐに診断
腸と脳は密接な関係があり、脳は神経を介して伝えられた情報を基に、消化を促進させたり排便を促したりしている。ヒルシュスプルング病は、腸を動かす神経節細胞が生まれつき無い病気で、約5千人に1人の割合で発生するといわれている。順天堂大学医学部付属順天堂医院(東京都文京区)小児外科・小児泌尿生殖器外科の山高篤行教授は「多くは生後間もなく診断されますが、まれに成人後に見つかるケースもあります」と話す。
子どもの成長に合わせて長期的に見守っていく
▽重度の便秘や腹部膨満
消化管の神経節細胞は、妊娠早期に食道から肛門に向かって徐々に延びていく。ヒルシュスプルング病は、この過程で何らかの異常が起こり、神経節細胞の分布が途中で止まってしまうことで発症するとみられている。神経節細胞が途絶えた先の腸は動かないため便が滞り、重度の便秘や強度の腹部膨満、嘔吐(おうと)や重い腸炎などを伴うという。山高教授は「原因遺伝子が幾つか特定されていますが、遺伝子に起因する発症は少ないと言われ、多くは原因不明です」と説明する。
神経節細胞の無い範囲は、直腸からS状結腸あたりまでの人が全体の約80%を占めるが、大腸全体や小腸にまで至る重症例もある。軽症例の場合、数日置きに、またはかん腸をすると排便可能な人もいる。「便秘症の中には、ヒルシュスプルング病の人がいるかもしれません」と山高教授は懸念する。詳細な問診を行っても、見分けるのは難しい場合が多いという。
▽治療には手術が必要
ヒルシュスプルング病か否かは、直腸の組織を少し切除して顕微鏡で調べて診断する。電気の通らない電線のように、神経節細胞の無い神経線維が分布していれば確定できる。補助診断として造影剤を用いたX線検査を行うと、拡張した腸管と神経節細胞の無い細い腸管が映ることが多い。
同院では肛門から腹腔(ふくくう)鏡を用い、直腸組織を調べながら、神経節細胞のない腸の範囲を見極めて切除し、正常な腸を引き下ろして肛門とつなげる手術を行っている。傷痕がほとんど残らず、患者への負担も少ないという。症例によっては、生涯にわたる人工肛門の設置や、臓器移植が必要になることもある。
山高教授は「手術後の排便機能の回復には個人差がありますが、普通と変わらない生活を送っている子もいます。子どもの成長に合わせて、長期にわたる経過観察が必要です」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/04/05 11:00)