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サイエンスとアートの両面を重視
医療人材育成のカギ-高知大学医学部

 ◇アートを身に付けるプログラム

 「サイエンス」とともに「医療に欠かせないアート」を身に付けるプログラムも、学生にはしっかりと用意されている。

 その一つが、医学科へ入学した直後に白衣で臨む「EME初期臨床医学体験」だ。具体的には、(1)付属病院での外来患者の付き添い実習をはじめ、看護部、検査部、リハビリテーション部、薬剤部、栄養管理部でのコ・メディカルスタッフの業務内容を知る付属病院実習(2)近隣の診療所でのプライマリ・ケア実習や高齢者・障がい児者の施設での実習-を経験する。

 「彼らは、医学生になってまだ間もないですから、医学知識ゼロの状態で患者さんや高齢者、障がい児者と向き合うことになります。だからこそ、そういった場面で、彼らの人間としての姿勢が培われていくと、われわれは期待しているんです」

高知大医学部のキャンパス

高知大医学部のキャンパス

 ◇10年目を迎えた「家庭医道場」

 アートを育む機会として力を入れているものに、今年で10年目を迎えた「家庭医道場」もある。これは、学生が1泊2日で高知県の中山間地を訪れ、地域のさまざまな人々と交流しながら、「住民の健康を守る視点から医療を考える」合宿。春には安芸郡馬路村で、冬には高岡郡梼原町で、それぞれ開催される。毎回、医学科と看護学科の学生30~40人が参加する人気の課外実習だ。

 高知県の高齢化率は32.8%(15年)と全国で2番目に高い。家庭医道場の現場はそれをさらに上回る。

 「高齢化が進むと医療、介護、予防、生活支援などのサービスの連携で住民を支える、地域包括ケアシステムの構築が重要になります。今後は都市部でも高齢者の急増が懸念されるので、家庭医道場への参加で、最前線で展開されている地域包括ケアシステムを勉強することは、これからの医療のあるべき姿を捉えることにもつながるはずです」

 ◇地域に世界に貢献する

 菅沼氏は、岡山大学大学院医学研究科で国際保健と感染症を学び、内科医として病院に勤務後、福井医科大学(現・福井大学医学部)で職業性呼吸器病の研究を開始。研究活動を続ける中で、高分解能CTによる画像診断の国際分類の開発や国際労働機関(ILO)の国際じん肺エックス線分類の改定委員を務めるなど、職業性呼吸器病対策の数少ない専門家の一人として世界的に知られる存在になった。

インタビューに応える菅沼成文医学部長

インタビューに応える菅沼成文医学部長

 そんな菅沼氏が目下、医学部にある先端医療学推進センターの社会連携部門で班長として取り組んでいるのが「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」だ。

 胎児期から小児期にかけての化学物質暴露が子どもの健康に大きな影響を与えているのではないか。この仮説を解明する環境省主導のエコチル調査は、10万組の親子を対象にした世界最大級の出生コホート研究(※)として注目を集めている。その調査拠点の一つに高知大学が四国で唯一、認定された。

 「高知県では11市町村に在住する妊婦さんに参加を呼びかけ、14年3月までに7000組を超える親子が参加登録し、今のところは子どもが13歳になるまで追跡調査をしていきます。エコチル調査で集まったデータから、これまでにわれわれの研究班は4本の論文を発表。投稿中のものも何本かありますが、興味深い事柄が浮き彫りになりつつあります」

 菅沼氏は「(自身が)医療を一緒に担っていく人材を育てる環境にいる」ことに、強いやりがいを感じていると言う。「学生たちが社会に出てどんな活躍をしてくれるのか、すごく楽しみなんです。地域に、世界に、貢献できる医療人になってほしいと願っています」

(※)コホート研究 特定の地域や集団に属する人々を対象に、長期にわたってその人々の健康状態と、生活習慣や環境状態といったさまざまな要因との関係を調査する研究。

【高知大学医学部 沿革】
1976年   高知医科大学開学
  81年   医学部付属病院開院
  98年   医学部看護学科設置
2003年  旧高知大学と旧高知医科大学を統合し、高知大学開学
  09年  先端医療学推進センター設置
  10年  エコチル調査のユニットセンター(拠点)に認定
  11年  医学科2年生に対し選択必修科目「先端医療学コース」を設ける
(医療ジャーナリスト・成島香里)

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