インタビュー

認知症、秋山治彦医師に聞く(上) =高齢者、5人に1人の時代へ

 高齢化に伴い認知症患者が増え続けている。2015年の厚生労働省発表では、患者数は12年時点で約462万人。正常と認知症の中間状態の軽度認知障害(MCI)の人も約400万人に上るとされる。25年時点の患者数は700万人前後と推計され、65歳以上の高齢者5人のうち1人が該当する。
 認知症対策はまさに急務だ。多数を占めるアルツハイマー型については病態解明が進み、診断技術の進歩で早期診断が可能になるとともに、根本的な治療法の開発が期待されている。日本認知症学会理事長の秋山治彦医師(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター)に、認知症治療の現状や国内の取り組みについて聞いた。


 ―認知症患者が急増していますが、どのような患者さんが増えているのでしょうか。

 秋山 認知症は認知機能が低下する病気の総称です。さまざまな疾患が認知症の原因となりますが、「アルツハイマー病」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」などがよく知られています。認知症は高齢になるほど増加しますが、高血圧や高脂血症の治療薬の進歩、管理体制の整備により血管性認知症の割合は低下しつつあります。高齢化で確実に増える「アルツハイマー病」が全体の半数を超えています。

 ―アルツハイマー病の発症原因は、どこまで分かっていますか。
 秋山 発病のメカニズムが正確に分かっているわけではありません。ただ、アミロイドβとタウという二つのたんぱく質が脳内に蓄積すると、発病すると考えられています。
 アルツハイマー病はアルツハイマー博士が1906年に発見しました。その時にアルツハイマー病の病態として、神経細胞が減少して脳が縮む、「老人斑」「神経原線維変化」が現れることがすでに指摘されていました。その後、1980年代に老人斑がアミロイドβの蓄積、神経原線維変化がタウの増加によるものであることが明らかになりました。

 ―アミロイドβの蓄積開始時期と認知症発症との関連はどのように分かったのですか。
 秋山 認知症にはごくまれに、遺伝子変異が原因で発病する場合があります。2008年から米国ワシントン大学を中心に、この遺伝子変異を持つ患者と家族の協力を得て縦断的な研究「DIAN(Dominantly Inherited Alzheimer Network)研究」が行われています。この結果、アルツハイマー型は発症の20~30年前にアミロイドβがたまり始め、それがゆっくり進行していくことが分かりました。
 それ以前にも神経病理学の領域では、亡くなった人の脳を顕微鏡で観察すると、生前に認知症の症状がなかった人でも、アミロイドβやタウがたまっていることがある、ということが知られていました。けれども、その人が死なずに生きていたらどうなったかということは分かりませんでした。しかし、さまざまな臨床検査の技術が進歩し、それらを駆使した大規模かつ精緻な「ADNI(Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative)研究」の成果が蓄積され、そこにDIAN研究で得られた情報が加わって、アルツハイマー病の発病から認知症発症に至る経過が明らかになりました。
 その結果、アルツハイマー病では認知症を発症した時点で、私たちが想定していたよりも脳病変がかなり進行していることが分かったのです。それまでは認知症を発症した段階で治験をやっていたのですが、それでは遅すぎたのです。現在は、軽度認知障害、あるいはそれよりさらに早い段階で治験が行われています。
 ―認知症と診断されたら、基本的な治療は薬で行うのですか。
 秋山 病気のステージにもよりますが、認知症治療の中心は非薬物療法で、薬は補助的に使用します。日常生活に大きな支障がない軽度の段階では、薬物療法の比重が少し高くなります。
 軽度~中等度のアルツハイマー病と診断されれば、合併症や副作用があって投与できない場合を除いて、薬が処方されることが多いと思いますが、一人ひとりについて、その方の身体的状況、年齢、環境、さらには人生観などさまざまな点を考慮する必要があります。なお投与初期に胃腸障害が出る人もいるので、体が慣れるまでは少量を投与し、体が慣れてきたら、臨床研究で効果が確認されている量を投与するようにします。
 ―認知症の薬を飲むと、どのような効果が表れるのでしょうか。また病気の進行は抑えられますか。
 秋山 認可されている4種類の抗認知症薬は、アルツハイマー病脳病変の進行を止めるのではなく、認知症の症状を一時的に改善する目的で使われます。4剤のうち、3剤は「コリンエステラーゼ阻害薬」で、もう1剤は「NMDA受容体拮抗薬」です。この2種類の薬はそれぞれ違う働きをします。アルツハイマー病は神経伝達物質であるアセチルコリンが早い時期から脳で減ってしまいます。コリンエステラーゼ阻害薬はアセチルコリンを増やすように作用します。それによって、多くの患者さんは脳が活性化され、症状が軽くなります。一方、NMDA受容体拮抗薬は、神経細胞間の情報伝達のプロセスを調節します。
 脳の活性化は、良い方向に働くことが多いですが、時には悪い方向に働く場合もあります。良い方向に働くと、記憶力が改善されたり、活気が出て外出を楽しめるようになったりします。しかし悪い方向に働くと、怒りっぽくなったり、暴力的になったりすることがあります。また、中には薬の効果が見られない人もいます。抗認知症薬は、一人ひとり効果を評価しながら適切に使用する必要があります。なお、抗認知症薬で脳が活性化されると、病気の進行が遅くなったように見えますが、脳の病変自体はそのまま進行していきます。
 このように今の医学では症状を和らげる薬はあっても、根本的な治療法はありません。根本治療薬の開発は世界各国で進められていますが、まだ臨床試験の段階です。
(ソーシャライズ社提供)

〔後半へ続く〕認知症、秋山治彦医師に聞く(下)=治療から予防へ、対策急務=

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