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尿路結石の発症に関わる遺伝子を発見-名古屋市立大 ~尿路結石患者では、脂質代謝を調節する遺伝子に異常がある事を証明~

尿路結石は、腎臓内で形成され、それが下降することで尿管(尿の通り道)が詰まり、激痛を起こす疾患です。放置をすると腎不全や尿路感染を引き起こし命にも関わる疾患です。尿路結石は、戦後、食生活の欧米化とともに増加し、わが国では約10%の人が罹患する国民病です。またその再発率は5年で50-60%と高く、新たな予防薬や再発リスク法の開発が重要な課題となっています。しかし尿路結石が発症する原因は不明な点が多く、治療としては、できてしまった結石を自然排石するように促す内服治療か、大きな結石に対しては衝撃波や内視鏡で破砕をする手術が行われています。

がんなどの病気では、ある特定の遺伝子が発症の原因となることが分かっているため、その遺伝子を標的とする薬の開発や使用が行われています。一方、尿路結石の遺伝子診断や治療はすすんでおらず、そのための研究が望まれていました。

名古屋市立大学の田口和己助教(腎・泌尿器科学分野)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のChi教授(泌尿器科)らの研究チームは、尿路結石の原因と考えられる腎臓内の石灰化(プラーク)を調べることで、尿路結石の発症となる原因遺伝子を特定できるのではないかと、手術検体を用いた国際共同研究を行ってきました。そしてこのたびの研究において、①尿路結石の発症原因には人種間の遺伝子発現のパターンに差がないこと、②尿路結石患者の腎組織では脂質代謝を調節する遺伝子(FABP4)の機能が弱くなっていること、③FABP4の機能不全マウスを用いた実験により尿路結石の形成が増えることを世界で初めて発見し、国際科学誌「Kidney International」に報告しました。

尿路結石は、肥満などの生活習慣病(またはメタボリックシンドローム)と関係が深いことが知られています。今回、ヒトの腎組織を用いて行った研究で、人種差よりも、FABP4の発現が関与することが分かり、この遺伝子の異常によって尿路結石が作られるメカニズムがあることが分かりました。このように尿路結石の発症に関わる遺伝子が特定されることで、これを応用した治療の開発に役立つ重要な発見です。
なお、FABP4の尿路結石に対する詳細な機能の検証と、これを標的とした治療の開発は、今後行う予定です。

ポイント
尿路結石は増加しており、新たな予防法・治療法の開発が望まれています。
・田口助教らによるマウスや手術検体を用いた研究によって、腎臓内の石灰化(プラーク)が尿路結石の原因であることを、過去に報告しています。
・本研究では、ヒトの腎組織の遺伝子解析を行うことにより、脂質代謝を調節する遺伝子(FABP4)が尿路結石の発症に関わることを証明しました。
・マウスを用いた実験により、FABP4の機能不全が尿路結石の形成を促進することが分かりました。
・これにより、FABP4が尿路結石の原因遺伝子として重要であることが、世界で初めて示されました。
・この成果は、これまでに詳細な原因が不明であった尿路結石メタボリックシンドロームの関係を遺伝子レベルで証明するものであり、FABP4を標的とした遺伝子治療の開発が期待されます。

【研究成果の概要】
名古屋市立大学大学院医学研究科の田口和己助教(腎・泌尿器科学分野)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のChi教授(泌尿器科)らの研究チームは、ヒト腎臓内の石灰化(プラーク)を調べる国際共同研究において、尿路結石の発症には人種間の遺伝子差がないこと、尿路結石患者の腎組織では脂質代謝を調節する遺伝子(FABP4)の機能が弱いこと、FABP4の機能不全マウスでは尿路結石の形成が増えることを新たに見出しました(図1)。

背景
尿路結石の原因として腎臓内の石灰化(プラーク)が知られています。私たちは、ヒト腎組織のプラークを用いた遺伝子解析と、それにつづく遺伝子の機能不全マウスを用いた実験により、尿路結石の発症原因となる遺伝子を同定し、その機能を調べました。

方法
はじめに、尿路結石の患者12名の手術検体である腎組織を採取し、プラーク部位と正常部位の遺伝子発現を比較しました。次に、再発を繰り返す別の尿路結石の患者さんの腎臓を取り出し、腎臓内の場所ごとでの遺伝子の発現を調べました。それらの結果を重ね合わせてコンピュータ解析することにより、尿路結石の原因と考えられる遺伝子を特定しました。

結果
12名の尿路結石患者の腎組織の遺伝子発現は、白人・黒人・アジア人といった人種間の差よりも、プラーク部位と正常部位とで大きく違っていました。腎臓内の部位では、プラークが多く含まれる腎乳頭部で遺伝子発現は異なりました。

これらの結果から、腎臓内のプラーク部位で特徴的な発現を示す遺伝子として、脂質代謝を調節するFABP4を同定しました。別のヒト検体を用いた実験からも、FABP4の発現はやはり尿路結石に関わる腎臓内のプラーク部位で発現が低いことが分かりました。

さらにマウスを用いた実験により、FABP4の機能障害が、脂肪細胞や免疫細胞であるマクロファージの障害を介して尿路結石の形成を促進することが証明されました。

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