Dr.純子のメディカルサロン
また確実にやって来る災害に備える
~東日本大震災から9年が過ぎて~ 久保田崇・掛川市副市長(元陸前高田市副市長)に聞く
海原 楽観バイアスという心理がありますね。自分だけは大丈夫だという。こう思っていないと不安で、心が壊れそうになるから。こういう心理に、気をつけないといけないですね。楽観バイアスの心理から脱却するのに、必要なことはありますか。
久保田 大津波が来るかどうかは、発生するまでは、分かりません。小規模な津波で終わることも多いですが、「今回も大したことはないだろう」と、油断しないで、毎回、注意を怠らないことが大切です。
掛川市では、逃げる場所やルートなど、家庭の避難計画を書き込めるガイドブックを配布しています。家族それぞれが逃げる場所を、事前に話し合っておくことも有効です。
大震災から5日たった2011年3月16日、避難所の体育館で毛布や布団をかぶって寒さをしのぐ女性たち(岩手県陸前高田市)【時事通信社】
海原 以前、災害関連のシンポジウムで、久保田さんとご一緒させていただいた際、「警報が出た時、それが空振りになったとしても、必ず避難をする。空振りの場合、これは予行演習をしたのだと考えて、面倒でも必ず避難を」と、おっしゃっていたのを覚えています。他に心掛けておくことはありますか。
◆避難所生活は大きな負担
久保田 自宅で過ごせる準備をすることです。災害時には、自治体は避難者のための避難所を開設します。ですが、東日本大震災や熊本地震などを通じて明らかになってきたことは、衛生状態やストレスが発生しやすい避難所での生活は、避難者への大きな負担になるということです。
19年12月に復興庁が発表した同年9月時点の「震災関連死」の死者数は3739人です。この数字は、警察庁が発表した20年3月1日現在の直接的な死者数1万5899人(行方不明者は2529人)と比べても、相当大きなものです。
陸前高田市では、震災から5カ月となる11年8月まで、体育館などの避難所での生活が続きました。初期には、さまざまな問題がありました。
水道が止まったことで、トイレに汚物がたまって流れない。食事の配給がおにぎりやパンなどで、栄養が偏る。着替えなどのプライバシーがないなどです。特に、トイレに行けないとなると、水分補給を抑制したくなり、これは健康に悪影響を及ぼします。
◆簡易トイレの作り方
海原 自宅で過ごすために必要な準備とは。
久保田 家具の固定、食料や水の備蓄、簡易トイレなどはよく言われることではありますが、とても大切です。
簡易トイレはさまざまなタイプがあり、高価なものでなくても十分ですので、準備したいものです。
いざというときには、ゴミ袋など大きめのポリ袋を洋式トイレにセットし、その上にビニール袋を置き、その中に新聞紙を敷くことで、簡易トイレとすることも可能です。使用後は、ビニール袋を二重に縛って、ゴミ捨て可能になるまで保管します。
こうしたことを見据えて、ポリ袋やビニール袋、新聞紙を備蓄するのもよいですね。
◆可能なら自宅で避難
海原 自宅で避難できる人は、そちらを選んだ方がいいのですね。
久保田 もちろん、自宅が被災した場合には、避難所に行くことをためらうべきではありません。ですが、できる限り、自宅で生活を続けられるように、備えることが大切です。
このことは、本当に避難が必要な人だけが避難所を使用することにつながり、行政の支援なども、そうした人に効果的に届くようになります。
海原 新型コロナの感染拡大で、自宅で過ごす時間も今後、増えそうです。災害に対する対策も、コロナ対策と同時に進めておくとよいのではないかと思いました。
久保田 崇(くぼた・たかし) 1976年静岡県掛川市生まれ。京都大卒。内閣府に入り、英ケンブリッジ大でMBA取得。東日本大震災後の陸前高田市で副市長を4年間務めた(2011-15年)。日本心理カウンセラー協会正会員。立命館大公共政策大学院教授を経て、19年から現職。著書に「官僚に学ぶ仕事術」「SNSカウンセリング・ハンドブック」「SDGsとまちづくり」など。
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(2020/04/10 08:05)