治療・予防

PCR検査に課題も
臨床の専門医が提起

 ◇臨床現場の経験、共有化に至らず

 「より深刻な問題がある。PCRの検査結果は他の検査と同様に、ある項目の数値、この場合は検体内のウイルス量を測定した結果であることだ。本来であれば、症状の評価や今後の病状の推移などの判断に欠かせない臨床的な知見が蓄積されていないため、病状全体の評価に直結することができていない」

 例えば、「PCRの数値がどこまで達すれば、その患者が周囲を感染させるだけのウイルスを排出しているかという点も分かっていない」と、加藤部長は問題提起する。現状ではPCRに取って代わる検査法はない。しかし新たに存在が確認された新型コロナウイルスが、どのような症状をどのような経緯で引き起こすか、重症化する場合や症状が急変するか。臨床現場での経験も十分に蓄積されず、共有化にも至っていない。

加藤英明・感染制御部長

加藤英明・感染制御部長

 新型コロナの全体像不明

 「どのような検査とそれに伴う結果も、臨床情報の蓄積と検査結果と病状の相関性が確定してこそ、効果を発揮する。現状ではさまざまな検査結果や食欲などを含めた体調全体を診ながら、PCR結果を評価するしかない」。さらに「PCR検査は検体中のウイルスのRNA(リボ核酸)の存在を確かめるもので、検出されたものが、いわば生きたウイルスかどうかも分からない」と話す。

 PCR検査陽性が長く続く場合でも、どのような人は陽性が続くことになるかは臨床的にはまだ確定できず、感染力のあるウイルスを排出し続けているのかどうかも分からない。このため加藤部長は「PCR検査の結果で退院や隔離解除を決めるのは難しい」と漏らす。

 加藤部長は「インフルエンザのように、『解熱してから48時間で治癒』というような症状に基づく陰性確認基準が必要と思われる。残念ながら、まだどのようになればこの病気が治った、と言える十分な経験がなく、それには一定の時間が必要なことを知ってもらいたい」と話している。(喜多宗太郎・鈴木豊)

【用語説明】PCR検査
 新型コロナウイルスの診断に使われ、鼻や喉の奥の粘膜やたんの中のウイルス量を調べる。採取時にくしゃみなどを引き起こして感染リスクを大きくする可能性があるため、採取する医療従事者には高精度マスクやゴーグルなどの防護服着用、採取場所の換気の徹底などが求められている。新型コロナについては1回の検査では確度に問題があるため、退院確認には2回連続でPCR検査での陰性が必要とされている。

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