医学生のフィールド

医師だからこそ知ってほしい性の多様性
~LGBTQ当事者としてできること~

 近年、性的マイノリティーの権利や差別に対する問題に関心が高まっている。存在は知っているけれど周りにいないという理由で、無意識のうちに差別や配慮に欠けた対応をしている人も多いのではないだろうか。当事者としてLGBTQの研究をしている吉田絵理子医師に、医療者だからこそ知っておくべきことを聞いた。自分が医師になって働く理由や人生で大切にするべきものは何なのか改めて考える。

吉田絵理子医師

 ◇医師という立場で問題の大きさに気付く

 私が職場も含め、公にカミングアウトをしたのは、医師になって10年以上たってからです。学生時代、医学部は非常に閉鎖的な世界で、男女間のジェンダーギャップが大きく、セクシュアリティに関しても差別的な発言がありました。多くの医師は多様なセクシュアリティについて尊重しないのだと感じていました。そのような環境の中でカミングアウトすることは怖いし、リスクが高いと思っていました。私自身が患者として医療機関を受診した際に、セクシュアリティを隠そうとすることで不便を感じたこともありましたが、日常生活の中で慣れていたので、医療者が変わる必要があるという発想には至りませんでした。

 LGBTQと医療に関する交流会で、トランスジェンダーのお子さんを持つ方とお話しする機会がありました。お子さんが両親にカミングアウトできず、自分でホルモン剤を輸入して使用し、健康被害が出てしまったという話を聞き、医師という立場でLGBTQの人々の健康問題の大きさに初めて気付きました。

 社会全体では、LGBTQに対しての啓発活動が行われ、多様な性についての理解が深まってきているにもかかわらず、医療業界は全く変わらない時代が長く続いていたのです。大学院でLGBTQの研究を始めてから、セクシュアリティに関する講演の機会が増え、このまま自分が当事者であることを隠し続けることはできないと感じ、カミングアウトをすることを決意しました。ただ職場でのカミングアウトは怖く、最後になってしまいました。

 医療関係者の方からは、LGBTQの人が自分の周りにはいないので、必要になったときに学びたいと言われることがあります。LGBTQの人は医療機関であっても、必要がなかったらカミングアウトしないでしょう。また、医療上セクシュアリティについて話す必要があると思っても、差別されるのではないかという思いから話せないこともあります。周りにいないのではなく、見えにくいということを知っておくことが大切です。

allyバッチをつけた吉田医師

 ◇医療機関でできること

 まずは性的指向、性自認に関する差別をしない等の院内ルールを定め、職員教育を行い、環境を整備し、組織の文化を創り、病院のホームページや受付のパンフレットなどで、患者さんに向けても取り組みを発信していくことが必要です。

 また、LGBTQと一つにまとめて表現されることが多いですが、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの人とトランスジェンダーの人とでは、医療機関を受診する際にどのようなことがバリアーになるかは異なります。

 トランスジェンダー、つまり、生まれた時に割り当てられた法律上の性別と自身の性への認識とにギャップがある人については、例えば、「問診票の性別欄が男女2項目の選択制になっている」「男女別のトイレしかない」「健康診断で着るピンクと青に男女別で分かれた服」など、バリアーになりうることがたくさんあります。そういうことを避けるために医療機関への受診を先延ばしにしてしまうことがあります。

 同性のパートナーがいる人たちに関しては、例えば、「結婚はしていますか」という質問は「パートナーはいますか」と言い換えるなど、言葉の選び方を工夫できます。また、性交渉歴など個人的なことを聞く必要がある場合には、患者さんに対して「診断のために、このような情報が必要なので教えていただきたい」と説明をしっかり行うことが重要です。その上で、異性愛を前提とせずに同性間の性交渉についても聞くとよいでしょう。

 大切なのは、外からセクシュアリティは推測できないので、誰に対してもこのような対応を心掛けることです。現在、法律上同性のパートナーとは結婚ができませんが、法律上の関係がないということを理由に病院での面会ができなかったり、みとりに立ち会えなかったりということも報告されています。本来は、患者さんが会いたい人と面会できる権利は守られるべきですが、このようなケースが後を絶たないのです。

 今後の活動の目標は、国内のすべての医学部の学生がセクシュアリティについて学べるようにすることです。さらに医師だけでなく、医療現場で働いている医療スタッフの方たちにもセクシュアリティのことを正しく知る機会を提供し、誰もが差別的な対応を受けることなく、安心して必要な医療が受けられるようにしたいと考えています。それには座学だけではなく、模擬面接などの実践的な方法で学習できる場を設けることが必要です。

 一部の先進的な施設ではそのような教育が進んでいますが、日本ではまだ少ないです。学び始めると気付きが生まれ、現場は変わっていきます。これはLGBTQに限らず、さまざまな医療現場の課題に共通していると思います。医療機関だけではなく、教育現場や法律なども変わって、私が感じてきたような不安や恐怖を、当事者の人たちが感じることがなく、安心して暮らしていける日本になってほしいと思っています。

武藤彩加

 ◇「マイノリティーはツールになる」

 私は理学部から医学部に学士編入をしたり、今もフル勤務ではなく講演や執筆活動や研究にも時間を費やしたりしていて、いわゆる医師の王道の働き方はしていません。学生の頃から、いろいろな文化や価値観、知らなかった世界をたくさん見ることはすごく面白いことですし、医師になる上での糧にしてきました。

 最後に、「マイノリティーはツールになる」という言葉を紹介したいです。私自身、マイノリティーであることを公にするまで時間をかなり要しました。医療の世界は特殊な空気がありますが、多様性がないと非常に脆弱(ぜいじゃく)な集団になってしまいます。

 自分のマイノリティー性は医療者として活かすことができます。特別なことをする必要はなく、患者さんの話を理解したり、他の人が見えにくい「気付き」をキャッチして医療機関全体を変えていったり、できることはたくさんあります。マイノリティーである部分をマイナスに捉えすぎずに、大事にしていただけたらと思います。医師にもいろいろな働き方、生き方があります。自分にとって何が本当に大事なのかを考えて、目をそらさないことが人生を豊かにすることにつながると思います。〔聞き手・文:武藤彩加(杏林大学医学部3年)企画:学生団体メドキャリ※〕

 【吉田絵理子】

 川崎協同病院総合診療科科長。臨床医の傍ら、東京慈恵会医科大学の研究生としてLGBTQと医学教育に関する研究を行っている。また、日本プライマリ・ケア連合学会のダイバシティ推進委員会、日本医学教育学会の多様性推進委員会の委員の1人としても活動している。2018年に自身がバイセクシュアルでXジェンダーであることをカミングアウトし、LGBTQ当事者の医師として、講演や執筆などの活動を続けている。21年4月には一般社団法人「にじいろドクターズ」を医師5人で設立した。(了)

 ※学生団体メドキャリ   

 医療系の学生が自分らしいキャリアを考えるために2018年に発足した学生団体。キャリアに関するイベントや情報発信などの活動を行い、医療系の学生や若い医療者が広い視野を持てるように学びの機会や交流の場を提供している。facebookページ

【関連記事】


医学生のフィールド