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トランスジェンダー、医療にアクセスできぬケース多く
~LGBTQの8割が行政・福祉サービス利用で困難~ 関係者の理解不足浮き彫りに―NPO調査

 ◇支援方針等作成は医療・福祉系で5%前後

 ReBitは同時期にLGBTQの支援者(主に福祉系)を対象としたアンケート調査(有効回答者491人)も実施した。

 その結果、支援者の半数に当たる48.2%がLGBTQの支援を経験していたが、そのうち約9割に当たる89.6%が「十分/適切な支援ができなかった」と回答した。

 その内訳は、「適切な連携先などを紹介できず、情報提供がうまくいかなかった」(36.9%)、「他の支援者や上司にLGBTQに関する十分な知識や理解がなく、『組織』として適切な支援ができなかった」(28.8%)などだった。

 相談を受けた支援者自身だけでなく、連携する他の支援者や上司など支援現場に関わる全員がLGBTQに関する適切な知識・情報を持っていることが望ましいと言える。

 LGBTQへの支援の中で、十分または適切な支援ができなかったと感じた経験を自由回答で聞いたところ「本人の同意なく第三者にセクシュアリティーを広めないよう、どう配慮したらいいか分からなかった」「本人の同意なく第三者にセクシュアリティーを広めてしまった」などの声が寄せられた。

 さらに、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士の「三大国家資格保有者」のうち、LGBTQ支援について養成課程で学んだことがあると回答したのは12.3%にとどまることも分かった。勤務している機関で学んだとの回答は23.1%だった。また支援者の72%が、支援業務の中で他の支援者の不適切な言動を見聞きしていた。

 勤務していた支援機関が、LGBTQに関する支援方針やマニュアルを作成・周知していた割合は医療関係機関で5.3%、福祉関係機関で5.2%と非常に低かった。

支援関係マニュアル

支援関係マニュアル

 ReBitはこの調査を受け、主に就労系障害福祉サービスで可能な取り組みをまとめたマニュアル「LGBTQも安心して利用できる障害福祉サービスのためにできること」を作成し、ホームページで無料提供を始めた。

 昨年6月にドイツ・エルマウで開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)後に出された首脳コミュニケでは、「ジェンダー」の項目に「性自認、性表現、性的指向に関係なく、誰もが同じ機会を得て、差別、暴力から保護されることを確保することへの完全なコミットメントを再確認する」という文言が盛り込まれ、日本政府もこれに賛同している。

 国内では、LGBTQなど性的少数者への理解増進法が、超党派の議員連盟による2021年の原案取りまとめから約2年を経て先の通常国会で成立し、6月23日に施行された。同法は性の多様性に関する国民の理解を広げるため、政府に基本計画の策定を義務付けることが柱だが、内容は相次ぐ修正で大きく変容し、自民党保守派の反発もなお消えていない。

 調査を行ったReBitの薬師実芳代表理事(34)は「LGBTQは精神障害、自殺念慮や自殺未遂、生活困窮を経験する割合が高い。特に障害や難病のある当事者で自殺念慮などの割合が顕著なことから、インターセクショナリティー(交差性)による困難の多層化がうかがえる。行政・福祉サービスや医療は安全網だからこそ、LGBTQを含めたすべての人たちが安心してアクセスできるように社会の取り組みが進むことを願っている」と話している。(時事通信社「厚生福祉」2023年8月18日号より転載)

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