現代社会にメス~外科医が識者に問う
抜け穴だらけの医師の働き方改革
~医療現場の「真の声」届くのか~ ワーク・ライフバランス 小室淑恵さんに聞く(下)
◇上限規制が必要な時間生み出す
河野 仕組み自体に問題があるということですね。
小室 疑問を抱いている医師も多いはずなのに、決められた仕組みは変えられないという思い込みが医師の思考を停止させているのです。2024年4月から上限規制が始まることや、厚労省から「業務に関係する自己研さんの時間は労働時間にカウントする」というガイドラインが示されたことに対し、「自己研さんをまともにカウントしたら、医師が本当に必要な研究をしなくなる」と、SNS上に書き込む医師がいました。研究以外の時間を奪っている業務は何一つ変えられないことを前提にして「自分たちが本来やりたかった研究ができなくなる」と危惧しているのですが、むしろ逆です。変わらざるを得なくなるのは、病院経営者や専門医機構の定めている仕組みそのものです。仕組みが原因と分かれば、そこに何らかの圧力がかかります。むしろ本当に必要な仕事に時間を使うことができるようになるのが上限規制の効果です。
医師の残業規制の狙い・効果
教育業界でも、労働時間の管理が厳密に行われることに対して「そんなことをしたら、生徒のためにやってきたさまざまな行事ができなくなる」と教員たちの反発がありました。やらなくていい業務が他にあるのに「そこは変えられない」と思い込み、必要な行事まで中止しなくてはならないという発想になるのです。
本来変えるべきものは他にあります。現場だけが時間の圧縮を求められることのないよう、行政に対しても働き掛けが必要です。医師の過労死家族会でもその働き掛けを行っていきたいと考えています。
◇社会全体で意識変革を
河野 本当におっしゃる通りです。社会構造に問題があるんですよね。現場にだけ重いものがボンと乗せられている感じです。病院や学会だけでできることには限界があり、国や国民を巻き込んで社会全体で変えていかないと根本的な解決にはならないと思います。
小室 昨年末、「20代の医師の14%が自殺を考えている」という調査結果が報道されて衝撃を受けました。 学校現場においても死因は公表されていませんが、年間400人を超える教員が亡くなり、常時6000人が精神疾患で休職(*1)しているのです。「教師が楽をするための働き方改革」と誤解されることがありましたが、学校で先生方が追い込まれている状況を知れば、自分の子供が一番影響を受けていることに気付くはずです。当時はそこが知られていなかったため、まず先生方の窮状をよく知ってもらうところから始めました。
医師の場合もまずは、勤務医を含む業界全体の過酷な状況、その影響を受けるのは患者であり国民が最も損をしているのだという認識を高める必要があると思います。
全国医師ユニオン「勤務医労働実態調査2022実行委員会」資料より
(2024/04/10 05:00)