Dr.純子のメディカルサロン
「女性だから大丈夫」は危険
~高まる動脈硬化や心臓病のリスク~
◇トランスジェンダーの診療にも注目
海原 ガイドラインではトランスジェンダーの方の診療についても提言がされていますが、これはこれまで見逃されてきた部分ではないかと思いました。時代に即したガイドラインですね。
塚田 ホルモン療法は心臓や血管に影響を与えるため、一般の方にも注意が必要です。特にトランスジェンダーの方に関する治療は現在、重要なトピックとなっています。トランスジェンダー女性に対するホルモン療法では血栓のリスクが高まる可能性がありますが、トランスジェンダー男性に対する男性ホルモン療法が循環器疾患のリスクを増やすかどうかは、まだはっきりしていません。
また、トランスジェンダーの方の診療では、本人確認時の配慮や性別選択欄に「その他」の選択肢を追加することが推奨されています。さらに、ジェンダーに関係なく使用できる院内着や、更衣スペース、トイレを整備することも大切です。こうした取り組みは、トランスジェンダーの方が安心して医療を受けられる環境づくりに欠かせないでしょう。
海原 トランスジェンダーの方にとっては診療を受けたくても担当医がトランスジェンダーに対して偏見を持っているのではないか、という不安があると思いますが、そうした不安に対して医療側の姿勢などの変化はあるのでしょうか?
塚田 少しずつ理解は進んでいると思いますが、まだ環境整備は十分ではありません。トランスジェンダーの方は医療機関を利用する機会も多いと思いますので、ネットワークを利用し、情報交換をしながら、適切な医療を受けられる施設を選ぶこともできると思います。医療者の中にもトランスジェンダーや性同一障害を抱えた人もいらっしゃいます。まずは、迷わず主治医の先生にご相談いただくことをお勧めします。
◇多様性に配慮した「共有意思決定」
海原 患者さんは、治療に関してなかなか医師に自分の思いを伝えられなくて遠慮してしまう傾向がありますが。
塚田 病気の宣告を受けたとき、動揺して自分の健康についてしっかり伝えられないことがあるかもしれません。そんなときのために、毎年の健康診断の結果と一緒に、これからの自分の健康に関する考えや希望を書き留めておくと安心です。
最近では、患者さん一人ひとりの多様な背景に配慮し、分かりやすい情報提供と選択肢の共有が医療者に求められています。「共有意思決定(シェアード・ディシジョン・メイキング:SDM)」という考え方では、患者さんと医療者が一緒になって情報を共有し、最適な治療を選んでいきます。これは、患者さんの希望や価値観を尊重し、話し合いを通じて納得のいく検査や治療を決めていくプロセスです。
今の医学生たちも、「共有意思決定」について学ぶようにコア・カリキュラムに組み込まれており、患者さんと医療者が協力してより良い医療を目指す取り組みが進んでいます。ガイドラインを賢く活用し、自分の健康に対する考えをしっかりと伝えられるよう、日頃から準備しておくことが大切ですね。公平で質の高い医療を受けるために、私たち一人ひとりも積極的に関わっていきましょう。(了)
塚田医師
塚田(哲翁)弥生(つかだ<てつおう>・やよい) 日本医科大学武蔵小杉病院副院長、救急・総合診療センター センター長・部長。日本医科大学総合医療・健康科学病院教授。
日本医科大学卒業後、米国カリフォルニア州スクリプス研究所、日本医科大学付属病院循環器内科を経て現職。趣味はピラティス。
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(2024/09/26 05:00)
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