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大谷選手の活躍で心がざわざわ
~自己関連付けの罠に注意~

 大リーグのオールスター戦でホームランを放ったドジャースの大谷翔平選手、6月以降の活躍は素晴らしく連日ニュース番組で取り上げられています。大谷選手の活躍を見ると嬉しくなり元気が出るという人、多いですよね。これほど周囲から支持され応援されている選手も珍しいと思います。

(文 海原純子)

本塁打を放つナ・リーグの大谷翔平選手(ドジャーズ)=7月16日、米国アーリントン(時事通信社)

本塁打を放つナ・リーグの大谷翔平選手(ドジャーズ)=7月16日、米国アーリントン(時事通信社)

 ただ最近、気になる話を聞きました。ある青年から「大谷選手の活躍する報道が繰り返されていると何か気持ちが落ち着かなくなる」というのです。気持ちがざわざわして不安になってしまう、というのです。その人は野球選手ではありませんし、スポーツに関わる仕事をしているわけではありません。上場企業の正社員で、社内でもかなりいいポジションにいると思われ、大谷選手とは何の関係もないはずなのです。強いて大谷選手との共通点を探すと、同じ年代ということくらいでしょうか。

 なぜそんな気持ちになるのだろうと思うかもしれませんが、こうした気持ちになるのはいわゆる「自己関連付け」と言えるでしょう。「自己関連付け」というのは、すべてのことが自分と関係しているように感じてしまうような心理のことです。例えば、上司が同僚Aさんについて「Aさんはあのプロジェクトをよくやったね」と褒めているのを聞くと、自分がだめだと言われているような気になってしまうというような心理状態です。自分は全く関与していないプロジェクトであるにもかかわらず、人が褒められると、自分がだめだと言われているような思いがしてしまうというものです。

 夫が知り合いの女性の書いた字をうまいね、と言ったら、自分の字が下手だと言われたように感じて不快になったという女性もいますが、これも自己関連付けと言えます。

 こうしたケースは、客観的に見れば本人と比較しているわけではなく、なぜそんな風に感じるのかと思うものですが、すべてを自分と関連付けている心理に陥ると、そうした冷静な判断ができなくなるので注意が必要です。特に自分が気にしている内容のことに関しては自己関連付けしやすいのです。

 先ほど紹介した大谷選手の活躍を見ると気持ちがざわざわする青年も自己関連付けしていると思われます。同じ年代の大谷選手が大活躍して何億も収入を得ているのを見て自分と比較し、自己肯定感が揺らいでしまったのではないでしょうか。自分も仕事で充実しているはずなのに自己関連付けした途端に気分は一変してしまいます。

 ◇あなたの自己関連付けの傾向は?

 ではどんな人が自己関連付けしやすいのでしょうか?

 自己関連付けしやすい傾向があるかについて次のようなチェックがあります。

 例えば、初めての集まりに出席することになったとします。席に座って周りを見渡した時、この人は自分より若いか年上か、自分より豊かなのか、学歴が高そうか、魅力的か、ダサいか、などとすぐ比較して自分のその集まりでの立ち位置が気になるような場合は自己関連付けしやすい傾向があります。

 もう一つ例を挙げましょう。マンションのロビーで「このごろ、夜にテレビの音や話し声がうるさくて困る」とぶつぶつ言っている人がいると、周りにはたくさん住人がいるのに、この人は自分に文句を言っているのだろうか、と思ったり、うるさいのをどうにかしてくれと自分に頼んでいるのだろうかと思ったりするような場合です。その人が単に愚痴としてぶつぶつ言っている、と思わずにすぐ自分が何か関わっていると思うようなら自己関連付けしやすいと言えます。

 同僚が「最近忙しくて時間がない」というのを聞くと、自分がひまそうだと言われているように思ったりする人も自己関連付けリスクがあります。同僚はただ一人でぼやいているにもかかわらず、それが分からない場合も自己関連付けです。

 ◇自己関連付けで起きる二つの問題点

 自己関連付けはこのように、すべてのことを自分と関連していると感じて、比較したり、比較されたりしたと思い込むことです。不快な気持ちが起きてその不快感をため込むとうつ気分に陥ります。

 一方、比較されたと思い込んだ時、突発的な怒りが起きて相手に対して攻撃的になり、口論になったり暴力に変わったりすることもあります。特に家族など身近な相手の場合などではこうした自己関連付けによる怒りの爆発でコミュニケーションが断絶したりすることにもなりかねません。相手にとっては、全くそんなつもりで発言したわけではないので言いがかりのように感じてしまうものです。

 接客トラブルなどもこうした自己関連付けにより、起きることがあります。

 ◇なぜ自己関連付けをしてしまうのか

 親から兄弟姉妹や同年齢の子どもと比較されて育ったような場合や成績で周りと比較されて褒められたり怒られたりして育つと、自分の中での「基準」が設定できず、人との比較で自分の価値を判断するようになり、それにより気分が左右されるようになります。周りとの比較による「上か下か」を気にする心の癖がつきやすいといえます。

自己関連付けは自己肯定感を低下させる

自己関連付けは自己肯定感を低下させる

 ◇自己関連付けの癖を持つ人はどうすればいい?

 1 まず点検する

 いずれにしても自己関連付けは自己肯定感を低下させるのでこうした心の癖がついているかもと思う人は、嫌な気分が起きたら「自己関連付けをしていないか」と点検することが必要です。

 誰かが褒められてもそれはあなたとは関わりがなく、あなたを否定しているわけではないのです。

 2 自分の基準を設定する

 周りとの比較ではなく自分自身の目標を立てることが必要です。収入や仕事の内容、生き方など自分の理想と目標を立てて、比較は常に自分の設定した理想との間で行い、他人との比較をしない心の習慣に変えていくのです。他人と比較を始めたらすぐにストップする習慣をつくるのです。

 3 立ち止まり修正する

 気分が落ち込んだ時、自己肯定感が低下したと感じた時、自己関連付けしていないかを振り返ります。うつ気分のスパイラルに入る前にまず立ち止まり、人と比較せずに自分の目標を見直す習慣をつくることが大事です。誰かが褒められても、それはあなたを否定するものではないのです。(了)


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