治療・予防

抗生物質が根本治療薬に
筋強直性ジストロフィー 中森雅之山口大学教授に聞く③完

 ー具体的にどのような治療効果が期待できますか。

 基本的に病気の根本的な原因になっているところを解決する治療薬なので、対症療法ではなく根本的治療と考えています。
  脳細胞はいったんダメージを受けると元に戻りませんが、病気の根本的なところを抑えられていると筋力が改善したり、心臓の不整脈が良くなったりして、突然死を防げるようになると思います。強く握った手がすぐに開けない、などの筋強直症状は、まさにスプライシングの異常によりダイレクトに筋肉の興奮を抑えるタンパク質が減っていることが原因なので、エリスロマイシンの働きによって、スプライシング異常を改善すると、抑えられるはずです。

 ー抗生物質を長期間飲み続けると、副作用は問題になりませんか。

 基本的には生涯、飲み続ける必要がありますが、すでにCOPDなど他の病気で長期の内服療法が確立されています。エリスロマイシン自体に腸管を動かす作用があるので、第Ⅱ相では、その影響で下痢や軽い腹痛が出た人もいましたが、内服を中止するほど重症の方は一切おらず、 続けているうちに全員良くなっていったので、長期投与しても問題はないと考えています。
 抗生物質は、長期投与すると耐性菌が出てくるという問題がありますが、すでにエリスロマイシンは他の疾患で長期投与が行われており耐性菌はすでに広く存在しているので、患者数の限られた筋強直性ジストロフィーに対して使用することで、新たに耐性菌を増やすリスクは低いと考えられます。また、エリスロマイシンの耐性菌に効く薬がいくつもあるので、実際なにか問題になることはないと考えています。

 ◇資金不足がネック、国際共同治験へ

 ー第Ⅲ相試験は、いつごろ開始されますか。 市販化のめどは。

  今準備の最中です。早く始めたいのですが、資金がネックになっています。新薬なら高い薬価がつきますが、エリスロマイシンが日本で発売されたのは1953年と、発売後かなり年数がたっているため、薬価も1錠15.2円と非常に安くなっています。筋強直性ジストロフィーの患者さんが健康保険でこの薬を使うには、新たに販売体制を整えて、市販後調査を行う必要が生じますが、現在の薬価では、それらの費用を賄うことができません。製薬企業の持ち出しになるということでは、なかなか経営判断が難しいという事情があります。
  第Ⅱ相試験は、マイランEPD合同会社(2023年11月1日からヴィアトリス・ヘルスケア合同会社に社名変更)の支援を受けて実施しました。第Ⅲ相試験では、できれば第Ⅱ相の3倍以上、100人くらいの規模で1年間くらい臨床試験を実施したいと思っているのですが、それだけ大規模な試験になると、相当の資金が必要になります。メーカーとしても、患者さんが薬の登場を待ちわびてきた難病への最初の特効薬となる可能性があるということで、意欲は持っていただいているのですが、営利企業として赤字を前提にした開発はできません。
 国として、ドラッグリポジショニング、既存薬を転用したときの薬価の設定を、少なくともそれを売る会社が損をしないぐらいに設定するようなシステムがあればいいと思いますが、そう簡単には実現できないでしょう。
 そこで、我々としては、第Ⅲ相試験は、国内だけでは難しいので、 国際共同治験という方法を模索しています。薬価制度が比較的緩やかな米国や欧州で先に承認を取って上市してもらい、国内では公知申請して早期の承認を得ることで、結果的に日本の患者さんにも早く使っていただけるようにと考えています。
 第Ⅱ相試験で、投与を中断されるような重篤な副作用もなく、安全性に問題がないことが把握できたので、第Ⅲ相治験では、高用量でより長い期間の投与を行い、臨床症状の改善をしっかり証明したいと思います。
 資金や体制など、製薬会社を含めて関係者のサポートにかかっている部分もありますが、最短3年で国内で市販化されることを目指しています。


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