口や舌が勝手に動く
~遅発性ジスキネジア(慶応大学病院 竹内啓善准教授)~
統合失調症などの治療に使われる抗精神病薬。長期にわたる使用の副作用の一つとして、口や顎、舌、手足や体幹などが勝手に動いてしまう遅発性ジスキネジアがある。慶応大学病院(東京都新宿区)精神・神経科の竹内啓善准教授に聞いた。

遅発性ジスキネジアの主な症状
◇高齢、女性でリスク
遅発性ジスキネジアの特徴は、患者本人の意思とは無関係に顔や体が動いてしまう不随意運動だ。比較的ゆっくりと不規則に動く症状により、周囲の目を気にしてしまう他、重度になると会話や食事がしにくい、箸がうまくつかめない、字が書きづらい、歩行が困難になる―といった場合もあるという。
「こうした症状は、抗精神病薬を飲み始めて数カ月以降に出るケースが大半です。睡眠中は出ず、起きている間に出るのが特徴です」と竹内准教授。抗精神病薬の種類により異なるが、およそ20~30%の患者で生じる。高齢、女性、うつ病や双極症などの気分障害、糖尿病、アルコールや薬物依存などは危険因子だという。また、吐き気を抑える薬などでも症状が出るときがある。
統合失調症では、脳内でドーパミンが過剰に分泌され幻覚や妄想などの症状が表れる。「抗精神病薬はドーパミンを受け取る受容体をブロックし、ドーパミンの過剰な働きを抑えますが、長期間ブロックされることによる生体反応として受容体が増え、ドーパミンによる刺激が過剰に起こることが遅発性ジスキネジアの原因と考えられています」
◇早期発見と薬の最適化
遅発性ジスキネジアは治りにくく、症状が改善しないケースもある。早めの診断と治療が最善策だ。
「入れ歯が合わず口をもぐもぐさせている人もいるため、まずは適切に診断を行います。遅発性ジスキネジアと診断されれば、まず抗精神病薬の種類などの見直し(最適化)を検討します。これにより改善する患者さんもいます」
その他、ビタミンEやイチョウ葉エキスを追加で処方する場合もある。また、2022年には遅発性ジスキネジアの治療薬「ジスバル」が保険適用された。「抗精神病薬の最適化を行っても症状が続くようなら、試みる価値があります」。ただ、眠気などの副作用に注意は必要だ。なお、パーキンソン病の薬であるL―ドーパの副作用としてのジスキネジアには適用されていない。
「顔や体が勝手に動いてしまうような症状があれば、遠慮なく主治医にご相談ください」と竹内准教授はアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/04/23 05:00)
【関連記事】