不随意運動 家庭の医学

 自分では動かそうとしていないのに勝手に動いてしまうような、自分の意思に反する異常な運動を不随意運動といいます。多くは脳の病気で起こり、睡眠時には休止し、興奮すると増強します。不随意運動のなかでも、手足のこまかいふるえを振戦(しんせん)と呼び、高齢者で振戦だけをみとめるものを老人性振戦といいます。
 基礎疾患に高血圧があり、ラクナ梗塞(多発性の小さな脳梗塞)が生じた場合にも振戦が起こることがあります。パーキンソン症候群では、手足の振戦に加えて、手足の筋肉がかたくなり、運動がにぶり、表情がとぼしくなります。からだが前かがみになり、精神的に抑うつ状態になります。肝不全や慢性腎臓病(CKD)、アルコールやたばこなどの中毒でも振戦が出現することがあります。甲状腺機能亢進症でも手足がふるえ、頻脈や眼球突出がみられ、落ち着きがなくなります。
 不規則な非対称性の動きであたかも踊っているような不随意運動を、舞踏病様運動といいます。おもにリウマチ熱が原因で、学童期に起こるものとして小舞踏病があります。中年以降で起こり、認知症を伴うものとして、ハンチントン病があります。妊娠や、膠原(こうげん)病の一つである全身性エリテマトーデスでも出現することがあります。
 ゆっくりとした、ねじれるような運動をアテトーゼ様運動といい、小児まひ、脳血管障害、頭部外傷でみられることがあります。筋肉がピクピクと収縮する不随意運動がミオクローヌスで、高齢者のクロイツフェルト・ヤコブ病を含むプリオン病、小児では亜急性硬化性全脳炎、成人ではヘルペス脳炎などでみられます。

■不随意運動
症状病名そのほかの症状など
振戦(小刻みなふるえ)老人性振戦ふるえのみ
ラクナ梗塞高血圧、感覚障害、構音障害
パーキンソン症候群小刻み歩行、手足のふるえ、無表情、筋肉のこわばり
肝不全だるい、意識障害
慢性腎臓病むくみ、倦怠感、尿が少ない、食欲がない
本態性振戦アルコール、たばこ、水銀、コカイン
甲状腺機能亢進症頻脈、眼球突出、多汗
舞踏病様運動小舞踏病小児期、リウマチ熱に伴う
ハンチントン病中年に多い、認知力低下
妊娠性舞踏病妊娠
全身性エリテマトーデス微熱、全身の発疹、関節痛、倦怠感、食欲不振
薬物中毒薬の服用、舌のしびれ、皮下出血、鼻出血
脳卒中意識障害、片側の顔面のまひ、吐き気・嘔吐、便秘
アテトーゼ様運動脳卒中意識障害、片側の顔面のまひ、吐き気・嘔吐、便秘
脳の外傷外傷あり
小児まひ発熱、まひ
脳腫瘍耳鳴り、吐き気・嘔吐、頭痛、片まひ、しびれ、けいれん
ウィルソン病肝障害
薬物中毒薬の服用、舌のしびれ、皮下出血、鼻出血
解離性障害、転換性障害覚醒中、人前でのみ生じる
ミオクローヌスクロイツフェルト・ヤコブ病知能低下、歩行障害
プリオン病知能低下、歩行障害
亜急性硬化性全脳炎麻疹罹患後の小児、知能低下
単純ヘルペス脳炎意識障害、けいれん発作、発熱
多発性硬化症知覚鈍ま、くり返す症状、視力障害、手足のまひ
肝硬変黄疸、腹水、出血傾向、息切れ、吐血、食欲不振、疲れ
慢性腎臓病むくみ、倦怠感、尿が少ない、食欲がない
薬物中毒薬の服用、舌のしびれ、皮下出血、鼻出血


(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 総合診療部 部長 細田 徹