【連載第4回】心に寄り添う制度設計=運用でも当事者に配慮―弁護士会医療ADR
◇思いを伝えたい
両親は裁判の提起を考えた。しかし、金目当てではない。息子はなぜ死んだのかきちんと説明してほしい、病院側に落ち度があったなら謝ってほしい、そして相当の賠償をしてほしい。そんなとき、弁護士会のウェブサイトで話し合い解決を目指す医療ADRという方法を知った。
ADRではまず、3人のあっせん人が両親に対して、病院側に何を求めたいか聴いた。両親は、診察で何があったのか、息子の病気がなぜ発見できなかったのか、病院として本件をどう考えているかなどを聞きたい、その上で相当な解決をしてほしいと述べた。
あっせん人は病院側に対し、両親の思いと質問を伝えた上で、主張を聴いた。病院側は、本件で死因となった疾患の発見は、現在の臨床医学では困難であると説明。他方で反省すべき点もあり、両親にそれまで伝えられていなかった状況についても話した。
あっせん人は合議を行い、本件は、病院の責任を前提に和解を成立させることは難しいのではないかとの心証を固めた(あっせん人が1人で医師の専門委員制度を設けている弁護士会の医療ADRでは、この段階で専門委員の助言を求めることが多い)。一方で両親が納得しないのは、病院側の過度な防御的対応にも原因があると判断。法的責任の有無とは区別した上で、病院側が両親への説明の中で、反省と改善をしっかり伝えることが紛争解決につながるとして、その旨を病院側に伝えた。
2回目の期日には担当医も出席し、三者が同席して診療経過や反省、改善点などについて説明。両親との質疑応答も行われ、その思いも病院側に伝わった。
◇賠償を超えた解決
男性が支払った治療費を、病院が負担するという以外には金銭賠償を行わず、病院側が「本件を教訓として、より良い医療を目指す努力をする」と誓約する内容で、和解が成立した。
両親は最後に「病院が、息子の死と真剣に向き合ってくれていることが分かった。息子が厄介者扱いをされたのではないという点は、先生の言葉を信じたい。どうか息子の死を無駄にしないよう、よろしくお願いします」と病院側に述べ深々と頭を下げた。
ADRが行われた弁護士会館を後にする両親の背中を見て、出席した病院関係者は医療安全への一層の取り組みをする必要があるとの決意を強くした。
(2017/08/31 11:02)