医療ADR

【連載第4回】心に寄り添う制度設計=運用でも当事者に配慮―弁護士会医療ADR

 弁護士会医療ADRは、東京、大阪、愛知だけでも年間計100件近くの申し立てがあり、うち30件以上が話し合いによって解決している。診療科目はさまざまで、申し立て内容や当事者の思いも事件ごとに異なる。単に金銭賠償にとどまらない。中立的なあっせん人を交えた話し合いの中で、相手方の立場や思いについても理解を深めながら、金銭による過去の清算だけでなく、再発防止策なども一緒に模索できる未来志向の手続きだ。

 裁判は結果が判決の形で公表され、法廷でのやりとりも一般市民に公開されている。これに対し、ADRの手続きは当事者の秘密が守られ、一切公開されない。和解で解決しても、その内容が公表されることもない。このため実際の事例を詳述することはできないが、これまでの経験を踏まえフィクションの形で、弁護士会医療ADRがどう進むか説明していく。(弁護士・増田卓司)

【ケース1】帰宅した外来患者が、数日後に急死した事例―遺族の申し立て

 ◇本当のこと知りたい

 30歳代の男性は強い腹痛と下痢のため病院を外来受診したが、担当医師の指示により経過観察となった。数日後に突如意識を失い、同院に搬送され間もなく死亡した。

 両親は、息子を突然失った深い悲しみの中に置かれながら、ある一つの強い疑念を禁じ得なかった。「息子は、病院の医者や看護師に厄介者扱いされて、適切な医療を受けられなかったのではないか」

 男性には軽度の知的障害があった。紆余(うよ)曲折を経て、両親の根気強いサポートの下、障害年金を受け取りながらハンディキャップと向き合い、就労もできるようになった。「人生これから」と思っていた矢先の死。診察時に不手際があったのではないか、なぜ精密検査や入院の指示をしてくれなかったのか。病院とは、どんなやりとりがあったのか。私たちが付き添えば、息子は亡くならずに済んだのではないか。両親の脳裏をさまざまな思いがよぎった。

 病院側は男性が障害者だからといって不誠実な扱いなどはしておらず、対応は適切で責任はないという説明に終始。両親にとっては、息子の急死への病院側の思いが見えず、互いの質問と回答がかみ合わないやりとりが続いた。

 ◇法的責任はない

 病院側は内部検証を行った。目指すべき万全の医療という観点では反省すべき点もあると評価され、担当医師が精神的にショックを受けているとの報告もあった。しかし、当時の具体的状況において死因となった疾患の発見は困難で、法的な問題はなかったとの結論に至った。

 患者遺族への謝罪は紛争の呼び水になるのではないかと、病院側はちゅうちょした。このため、客観的事実をできるだけ示して対応に落ち度がないことを根気強く説明していき、その際、遺族の感情に配慮した丁寧な対応を心掛けた。しかし、それでも両親の納得は得られなかった。

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