【連載第4回】心に寄り添う制度設計=運用でも当事者に配慮―弁護士会医療ADR
【ケース2】病院での集団感染事例―医療機関からの申し立て
◇事故の発生、困難な交渉
首都圏の病院で、耐性菌の集団院内感染が発生。最初の感染報告は、入院中に褥瘡(じょくそう)に罹患(りかん)した80代の男性だった。その後、隣接する病室の患者が罹患するなど約20人が感染し、10人を超える死者が出た。
自治体の調査で、褥瘡管理や手洗いの励行、感染症発症後の対応などに不十分な点が数多く指摘され、菌株のDNA解析から感染経路も特定されるに至った。
病院側としては、患者に生じた精神的、経済的な損害を補償し、救済しなければならない事案と考え、各患者・家族と個別交渉した。ただ、個別交渉では、説明に納得しないケースも数多くあった。口封じではないか、と警戒心をあらわにする患者・家族もいた。
◇多くの被害者、早期救済
20人もの患者・家族との交渉をしなければならないという点で、本件の解決は、マンパワーに限界がある病院側にとって一層困難であった。多くの和解交渉を行うには相当の時間がかかり、救済を待っている患者・家族の不満が募ることも懸念された。
そこで病院側は、医療ADRを利用することを決めた。あっせん人は、弁護士会が選任した中立的な第三者であり、事案についての法的評価を行う能力もあるため、救済を受ける側も和解案を受け入れやすく、早期救済につながるとの考えからだった。
さらに、共通のあっせん人が全ての患者の事件を担当することで、あっせん人による事案把握の時間を大幅に削減できる。また、被害の大小に応じ、見舞金から賠償まで事案に即した金額の和解金を提示することで、被害者間の公平感を保つことも期待できた。
(2017/08/31 11:02)