【連載第4回】心に寄り添う制度設計=運用でも当事者に配慮―弁護士会医療ADR
◇弁護士会館の外で
各被害者のADR期日では、あっせん人の進行により、病院側から事故発生の経緯や対応状況、公的機関の調査結果を踏まえた検証結果が伝えられ、今後の再発防止策を説明した。その上で本件については、金銭賠償を行いたいとの意向を改めて示した。
次いで、あっせん人が患者・家族から和解についての意向を、時間をかけて丁寧に聞き取った。患者・家族がこれまで歩んできた人生はさまざまで、和解解決に向けた思いもさまざまだった。
その上であっせん人は、金銭賠償すべき損害の評価や和解金額について調整。意見の隔たりから調整に時間がかかったケースもあったが、最終的には、病院側と被害者の大部分の間で和解が成立した。
ADRに係属した案件は、全ての手続きの終結までに1年余の時間を要した。しかし、医事・介護紛争において20人もの相手との紛争解決に要する時間としては、異例といえる短い期間だった。
◇キーワードは「納得」
民事裁判による解決の中心は金銭賠償。しかし医療事故に遭った患者・家族やかかわった医療機関側の思いは、一般の民事裁判とは異なり複雑だ。賠償だけの解決法では、心の問題が残る場合もある。医療ADRは柔軟な制度設計で、こうした事情を正面から受け止め、紛争当事者が相手方の思いを理解することからスタートする。
和解内容は事案に即して、金銭賠償だけでなく、相手方の謝罪や再発防止策が盛込まれることも多い。ADRの席で、医療機関側から事故発生の原因や再発防止策などについて、丁寧な説明がされることによって、患者側が納得し、申し立てを取り下げて終わる事案も少なくないのが実情だ。
増田卓司(ますだ・たくじ) 1952年広島県生まれ。広島工業高校化学工学科卒。化学工業会社勤務を経て、79年立命館大学法学部卒業。90年弁護士登録(名古屋弁護士会=現愛知県弁護士会)。2007年愛知県弁護士会副会長。08年から日弁連ADRセンター医療ADR特別部会長。15年から同センター事務局長。(了)
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(2017/08/31 11:02)