インタビュー

仕事や趣味、日常の時間を少しでも長く―高齢者の肺がん、生活機能重視の治療を
東京都健康長寿センターの山本寛・呼吸器内科部長

 ◇治療方針、医師と患者がよく話し合って

 こうした高齢者の肺がん治療に際し、患者の生活機能維持を心がけ、積極的に介入するのが同センターの大きな特徴だ。山本部長は「今までの日常生活を続けられる期間を長くし、生活の質(QOL)を維持することが最優先。自分がやらなければならないことを見極め、準備する時間も確保できる。本人や家族の満足度は高い」と話す。

 実際、高齢者でも、治療を受けながら働いたり、カラオケ、卓球といった趣味を続けたりする人は珍しくない。中には「がん仲間」でゴルフのラウンドを回る人たちもいるという。

 同センターの肺がん患者の平均年齢は80歳弱。他の病院と比べて10歳ほど高い。治療方針の決定に当たっては、診療ガイドラインに沿いつつ「今の生活をできるだけ長く続けられる方法」を、患者の体力や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの合併症の有無、本人や家族の希望を考慮して、よく話し合って決めていく。80歳を超えても、心臓や肺の働きが十分で、日常生活が自立している人なら、負担の比較的少ない胸腔鏡下手術を選択する場合もある。

 一方で、生活機能を低下させるような治療には慎重だ。例えば、抗がん剤治療で2週間入院したら筋力が2割落ち、自宅で生活して自分で買い物に行くという暮らしができなくなると分かっていたら、積極的な治療は勧めない。「治療しない、という選択も重要な治療の一つである、という位置付け。緩和ケアを施し、あとは生活機能を低下させないよう老年医学的な対処を図る。人生の最終段階を控えた高齢者とその介護者が、いい人生だった、と言えるような支援をすることが重要だと思います」

 ◇フレイル外来で機能をチェック

 同センターでは、「フレイル外来」で肺がん患者の生活機能や認知機能をチェックし、肺がん治療のリスクを評価するとともに、機能低下の予防にも役立てる。フレイルとは、心身が健康な状態と要介護状態の中間にあることを指す老年医学の概念だ。75歳以上のおよそ3人に1人がフレイルとされ、この段階で適切に対処すれば要介護に至るのを防ぐことも可能。同センターはフレイル外来での評価に限らず、老年医学的な視点から患者一人ひとりの問題点を拾い上げる。

 「歩行や食事、トイレ、入浴、着替えといった日常生活動作(ADL)はもちろん、電車に乗れるか、電話をかけられるか、薬の管理ができるか、といった手段的ADLが保たれているかも注意深く見る。足の筋力はとても重要」と山本部長は説明する。

 転倒による骨折リスクが高い骨粗しょう症、歩行障害や栄養障害、うつ、食べ物を上手に飲み込めない嚥下障害といった、高齢者の自立を妨げることになる症候に気づくことも多い。これらに対しても、各科の専門医や理学療法士、栄養士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなどの専門職が連携して対応する。患者が地域で介護保険のサービスを利用しやすいよう、主治医が書く要介護認定の意見書の記載にも配慮する。


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