インタビュー

どうする応急手当て、自助と共助の心構えは
阿南英明・藤沢市民病院救命救急センター長【南海トラフ災害医療・下】

 南海トラフ地震が起きた場合、災害急性期の救命医療への支援は必ずしも期待できない。東日本大震災の経験を生かし、熊本地震でも災害派遣医療チーム(DMAT=ディーマット)の「司令塔」を務めた藤沢市民病院(神奈川県)の阿南英明・救命救急センター長は「DMATのような公助を期待するだけでは駄目だと、市民の方にも分かってもらいたい」と訴える。「自助」と「共助」の心構えと備えはどうあるべきなのか、話を聞いた。

 ◇DMAT「司令塔」の警鐘

 日本の災害医療は1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに本格的に始まりました。当時は現地の情報が入らず、どのくらい医療支援が必要なのか共有する仕組みがありません。病院で日常の医療ができない状態だったのに、被災地外の医療チームもすぐに助けに行かず、重傷患者を搬送する航空機も、初日は1機しか飛ばないという時代でした。

 今では広域災害救急医療情報システム(EMIS=イーミス)があり、関係機関や医療チームが情報を管理・共有できます。災害拠点病院が指定され、急性期医療の支援に投入されるDMATができ、自衛隊機やドクターヘリを使って患者を被災地外に搬送する仕組みも整備されてきました。しかし、南海トラフ地震を想定した災害急性期の医療で、従来の基本指針に沿った対応ができるかと考えたとき、DMATなどの支援力は圧倒的に足りません。

 阪神大震災では家の下敷きになって「圧挫(クラッシュ)症候群」と診断されたり、火災でやけどを負ったりした方が多くいました。東日本大震災では津波が多くの人の生死を分ける一方、医療体制が維持されていれば防げた「防ぎ得る災害死」も問題になりました。

 南海トラフ地震は、阪神大震災と東日本大震災を合わせたような巨大災害になる恐れがあります。30年後かもしれないが、あす起きるかもしれません。

 非常時には、けがの手当てにしても、できる限り自分や家族の「自助」、隣近所や会社の同僚らとの「共助」で何とかしないといけないことを、頭にしっかり入れる必要があります。今からそういう心構えと備えをしておかないと対応できません。


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