医学部トップインタビュー
「県民の総意」で創設-秋田大医学部
シームレスな医療教育で注目
このシミュレーションセンターは地域の医師にも開放。「新しい分野にチャレンジするといった目的のために、さまざま病院のチームが練習に来ている。稼働率は高い」と言い、地域医療のレベルアップにも貢献している。
◇目指した救急医療
尾野医学部長は、心臓電気生理学の研究者としての歩みが長いが、医学部卒業時には麻酔科を選択した。「医学生の時はどこの科も面白かったが、救急医療に強い興味を持ち、救急に行くなら基礎的なトレーニングとして麻酔科がよい」と言われたのが理由だった。
麻酔科医として4~5年を過ごした後、「教授から『少しは研究もしなさい』と促され、それっきり研究をしている」と、ほほ笑む。「一個の細胞が活動しているのを見ると不思議だと思う。それを見ているだけで面白かった。臨床も好きだったため一時は悩んだ」というが、最終的に「研究はすぐに手に入るものでない。せっかくのチャンスだ」と思い、研究を続けてきた。
◇母国語が違う研究室
東西冷戦の末期、西ドイツに留学。この時、「研究室では(留学生の)母国語が違う。ブロークンイングリッシュでも皆、気にしない。意思が伝わればいい」と、身をもって感じた。また、ベルリンの壁崩壊を現場で経験した。
◇地域に根差した教育
秋田大医学部の特徴として尾野医学部長は「創設の意思を引き継いだ、地域に根差した教育」を挙げた上で、これからの医学生には「自己研さんを積んでほしい。医療技術は進歩するので一生勉強。そういう気概を持ってほしい」と語る。
かつて「医療費亡国論」が世に広がり、医療費を抑えるため医学部定員が減った時代があった。そんな時期から30年が経過し、日本は医師不足に陥った。今、その遅れを取り戻そうと急速に入学定員を増やしており、20年後には医師の需給は逆転し、医師不足が解消すると言われる。
「日本は10~20年後に人口が1億人を切る、今100万人の秋田県は20~30年後に60万人を切ると予測されている。その時、医師は今のように生活できるのか」
働き方改革の議論もあり、医療をめぐる労働・社会環境は予測がつきにくいが、尾野医学部長は「法科大学院は次々と募集停止や撤退に追い込まれている。歯学部は定員割れを起こしている」ことを例に挙げた上で、「時代の流れで(医療環境が)どうなるか分からない。自分のスキルを高め、勉強し、自分が生きていくためにも努力しなくてはいけない」と力説した。(時事通信社・舟橋良治)
(2018/10/11 14:50)