医学トップの視座

「チーム医療」の先駆者
今も生きる建学の精神-岩手医大

7テスラMRIを使用した研究(岩手医大提供)

 岩手医大の医学部の学生は約2割が岩手県出身、東北全体で約4割だ。祖父江学長は「地域性はそんなに強くないが、地域医療に貢献したいという学生は多い」という。卒業後に初期研修医として岩手医大に残るのは20人程度、県内の県立病院がやはり20人程度というが、「初期研修は都会に行っても、後期研修医はぐっと増える。最終的に卒業生の半分近くは県内に残っている」

 ◇「7テスラMRI」導入

 後期研修医が多い理由は、岩手医大が県内で唯一、医師教育を担っていることが背景にある。岩手県や医師会との良好な関係から、県立の複数の基幹病院が「この診療科はこの病院、この科はこの病院という形のたすき掛けシステム」で研修医を受け入れており、症例数の多さが強みになっている。今後は初期研修医を増やすのが課題で、祖父江学長は「今までは初期研修医、後期研修医が別々だったが、通して一貫教育をする」仕組みに改めた、と強調した。

 岩手医大は地方にありながらも、国の内外から注目される取り組みも手掛けている。文部省(現文部科学省)の補助を受けて、研究・臨床用の画像解析を行う超高磁場MRI研究施設を開設し、01年に3テスラMRIを稼働させた。当時は「3テスラは特殊な研究にしか使えないと言われていた」とされるが、岩手医大が臨床で利用実績を示すと今では臨床機として全国に普及。11年になって国内で2番目となる、より高性能な7テスラMRIを導入した。「海外からも共同研究を依頼されている」といい、基礎・臨床研究への応用を目指している。

 ◇哲学書を読みふける

岩手医大の矢巾キャンパス(岩手医大提供)

 祖父江学長は「高校時代は図書館の本は読んだが、授業は出なかった不良」と笑う。また当時は「安保闘争の少し前、権力に対する反発の時代」だったことも手伝って哲学書を読み始めた。「夜と霧」を書いた精神科医で心理学者のヴィクトール・フランクル、実存主義哲学者で精神科医のカール・ヤスパースなどを読みふけるうちに精神科に興味を持ち、医学部を目指した。岩手医大を卒業後は大阪大学医学部大学院で研究。同大学で教授を務めながら岩手医大の客員教授としても貢献し、16年に学長に就任した。

 ◇感動する心

 岩手医大の建学の精神には「医療人たる前に誠の人間たれ」とある。この「誠」は定義が難しいが、祖父江学長は「患者さんやご家族は体を病んで、心に痛みを感じている。そういう人たちの体や心の痛みを理解し、寄り添う医療人たれ。これが『誠の人間たれ』につながる」と、かみ砕いて学生に説明している。

 そんな医療人になるため、学生には感性を高めるよう求める。「幼いころはトンボが一匹飛んでいても感動した。年を経るにしたがって変な常識を身に着け、感動する心が失われていくが、感動する心があると感性が高くなり、患者の苦しみの理解につながる」と語る。(時事通信社・舟橋良治)

【岩手医科大学の沿革】
1897年 三田俊次郎が私立岩手病院を創設、医学講習所・産婆看護婦養成所を併設
1901年 東北・北海道初の私立岩手医学校を設立
  12年 岩手医学校が医育改革により廃校
  28年 私立岩手医学専門学校設立
  47年 戦後の教育改革により岩手医科大学に変更
  51年 学校法人を設立して新制岩手医科大学が発足
  65年 歯学部・教養部設置
2007年 薬学部を開設
  17年 看護学部を開設

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