2022/11/30 14:00
「inochi WAKAZO Forum 2022」3年ぶりの会場開催~「心不全」をテーマに解決策を競う~
東大医学部を卒業後、臨床医を経験してから米ハーバードビジネススクール(以下HBS)に留学し、帰国後に起業した医師が主宰する勉強会がある。「ビジネススクールでどんなことを学べるのか知りたい」という学生たちの希望に応える形で、2011年に立ち上げられた「山本雄士ゼミ」だ。さまざまな課題に対して考えることを主眼に置いたHBS流の学びの手法を模擬体験できる。ゼミの設立者で起業家の山本雄士医師と、ゼミ長を務める東京医科歯科大医学部3年の柏原朋佳さんに話を聞いた。(聞き手・文 医療ライター・稲垣麻里子)
◇31歳のときに米留学、体験を還元
山本氏 31歳のときにHBSに入学し、2007年に卒業して、行政関連の仕事などをしていました。当時はまだ、医学部を出てビジネススクールに行く人がほとんどいなかったため、慶応大医学部や東京医科歯科大の学生からキャリアパスを考える上で、経験を聞かせてほしいと言われました。
そこで、100人ぐらいの学生の前で講演しましたが、もっと詳しく聞かせてほしいと要望がありました。医学部にいながら先行きを不安に思い、「医師ではなくコンサルタントになりたい」とか「自分もビジネススクールに行って医学以外の道に進みたい」と思っている学生が、かなりの割合でいることに驚きました。
けれども、ビジネススクールに行くには時間もお金もかかるし、医学部の道を捨てるのはもったいないしリスキーなので、月1回、HBSでどんなことを学ぶか模擬体験して考える機会をつくってあげたらどうかと思い、提案してみたのがきっかけです。
―先生はなぜHBSに行かれたのですか。
山本氏 臨床現場で多くの患者さんが重症になってから医療機関を受診することが気になっていました。病気になる前に手を打てば、個人的にも社会経済的にも負担が少ないのに、医療機関では病気の診断と治療が中心。日本の医療のあり方に対して疑問を抱きました。
それを当時の東大病院の上司に持ち掛けたところ、医療の体制やサービスについて問題意識があるならビジネススクールで学んだらどうかと提案されたのです。
◇学生たちにあった閉塞感
―学生たちはどうして不安だったのでしょうか。
山本氏 キャリアへの閉塞(へいそく)感だと思います。2000年代前半辺りから医療過誤などの訴訟が増え、財政面の不安も話題に上るようになり、ゼミを立ち上げた11年ごろは、今以上に医療に対する不信感が世の中にありました。渦中にいる学生たちは「将来医師になる以外道はない」「医師になっても全然いいことがないのではないか」という不安に駆られていました。
さらに言えば、当時はITバブルがまだ続いていて、起業して成功し、若くして大金を得る人が少なからずいたので、「医師なんかやってる場合ではない」という気持ちも芽生えたのだと思います。
◇臨床医以外の道目指す医学生らが参加
柏原さん 私は以前から医療政策や医療系ビジネスに興味があり、臨床医以外のキャリアを積むことを目指して医学部に入学しました。臨床医ではない医師から話を聞く機会はありますが、ビジネススクールで実際に行っていることを学べる機会は初めてだったので、迷わず参加しました。
―ゼミの「ケーススタディー」とは、どんなことを行うのですか。
山本氏 具体例(ケース)の題材をもとに、ひたすら参加者同士でディスカッションする勉強法で、実際にHBSで行われています。
例えば、1人のクリニック経営者にフォーカスして、彼の前にはどういう課題があって、それをどうやって解決に導くか。または、糖尿病患者の治療についてどうするかなど、さまざまな題材を使ってみんなで頭を使って考えます。
答えが出るわけではなく、すっきりとした解決策があるわけでもありません。これを毎月1回行います。毎回のケースとテーマについてはゼミ長が学生スタッフと一緒に決めます。
◇参加者は学生と社会人が半々
―どんな人たちが参加されているのですか。目的は何でしょうか。
山本氏 医学、看護、薬学などの医療系の学生と、研修医、医師、看護師、製薬企業、医療系コンサル、官庁の方々などです。参加者は学生と社会人が半々ぐらいです。
学生は3~5年生が多くて、1年生はあまりいません。3年生から増えてくるのは、医学部以外の同期が就活に入り、社会に巣立っていくのに、自分たちは学生生活が続き、しかも医学の勉強しかしていないことで、焦りを感じるのではないでしょうか。
このゼミで社会人と交流するのは、学生にとってとても新鮮で刺激を受けると思います。
柏原さん 医学部での勉強はどうしても答えを覚えることがほとんどになってしまうのですが、山本ゼミでは、自分を見つめ直し自分の価値観を探してみる、医療を良くするために自分には何ができるかを考える、といった、ここでしかできない経験をすることができ、それが楽しくて参加しています。
また、受け身である大学の授業と違い、自発的に発言することで、自らがディスカッションの一部をつくれる点もゼミの魅力だと思います。
(2019/07/02 17:00)
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