慢性腎臓病(CKD)患児では左室リモデリング、左室拡張能と血圧上昇の間に複雑な相互作用の存在が指摘されており、小児CKDにおける心血管合併症への進展を理解する上で極めて重要である。英・King's College London British Heart Foundation CentreのHaotian Gu氏らは、CKD患児の血圧管理に関するランダム化比較試験(RCT)HOT-KID(Hypertension Optimal Treatment in Children with Chronic Kidney Disease)のデータを用いて、CKD患児における異なるレベルの血圧管理が左室拡張能に及ぼす影響を検討する探索的研究を行った。その結果、血圧を低下させることが左室拡張能の幾つかの指標に好ましい影響を与える可能性が示され、血圧を低く抑えることが左室拡張能の維持に重要な役割を果たすことが示唆されたと、EBioMedicine(2025; 115: 105691)に発表した(関連記事「120か140か、糖尿病患者の血圧管理目標」。)
収縮期血圧50〜75パーセンタイルの標準治療群と40パーセンタイルの強化治療群で比較
HOT-KIDは、イングランドおよびスコットランドの14施設で登録したCKDステージ1〜4(推算糸球体濾過量15mL/分/1.73m2未満)の2〜15歳の小児を対象とした、並行群間非盲検多施設共同RCT。CKD患児124例(平均年齢10.0±3.5歳、白人86%、外来平均血圧107/63mmHg)を標準治療群(収縮期血圧50~75パーセンタイル)60例および強化治療群(同40パーセンタイル未満)64例にランダムに割り付け、標準化された外来収縮期血圧が左室拡張能に及ぼす影響を検討した。心エコーはベースライン時およびフォローアップ時に行い、左室拡張能は、左室流入血流比(E/A比)、僧帽弁輪後退速度(e')および心房収縮速度(a')、E/e'およびe'/a'比の左室コンプライアンス、左房容積係数(LAVi)を用い評価した。追跡期間の中央値は38.7カ月(四分位範囲28.1〜52.2カ月)であった。
強化治療群でE/A比変化せず、心室中隔側e'増加、LAVi低下
僧帽弁流入量の変化を見ると、標準治療群と強化治療群でE/A比の年間変化率に有意差が認められた(平均値の差−0.07/年、95%CI−0.14~−0.01/年)。 なお、標準治療群ではE/A比の低下が認められたがE/A比が1未満の患児はおらず、強化治療群では試験期間中にE/A比の変化はなかった。これは、正常範囲内であっても血圧のわずかな低下でさえ左室拡張能に影響を及ぼす可能性を示している。
組織ドプラ法による変化は、強化治療群において経時的に心室中隔側e'が増加し、年間変化率は標準治療群よりも大きかった(平均値の差−0.003m/秒・年、95%CI−0.005~−0.001m/秒・年)。
LAViの変化は、強化治療群で経時的に低下し、その年間変化率は標準治療群よりも大きかった(平均値の差0.82mL/m²・年、95%CI0.22~1.42mL/m²・年)。
その他の指標の年間変化率は標準治療群と強化治療群で同様だった。
全有害事象および重篤な有害事象の発生頻度に両群で差はなかった。
良好な血圧管理がなされていても心機能の綿密なモニタリングを
同氏らは「本探索的研究は検出力が限られているものの、得られた結果からCKD患児において低い血圧を維持することが左室拡張能に好ましい影響を与えることが示唆された。CKD患児の多くは加齢とともに腎機能の悪化に伴い、最終的に拡張能障害を発症する。よって、今回示された左室拡張能の指標の微妙な変化は、現行のガイドラインに従い血圧が良好に管理されている場合でも、臨床的な左室拡張能の悪化や心不全への進行を予防するために行う心機能の綿密なモニタリングの有用性を示唆している」と述べている。
(医学ライター・宇佐美陽子)