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「アニサキス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。アニサキスとは、長さ2〜3センチの白くて細長い糸のような寄生虫(線虫)の一種です。とてもありふれた寄生虫で、スーパーで買った生魚を観察すると、意外と簡単に見つかることもあります。
ところが、その危険性についてはあまり知られていません。
誤って食べると、虫体が胃や腸の壁を突き破ろうと潜り込み、周囲に強い炎症を起こして激痛が生じます。
この状態を「アニサキス症」と呼びます。強い腹痛で病院に搬送され、アニサキス症と診断されて緊急で治療を受ける、といった事例はよくあるのです。
生魚を食べる前にはよくチェックしよう
◇意外に多い
アニサキス症は、実はわが国で年間7000件以上と、かなり頻繁に発生していることが分かっています(1)。新鮮な魚介類の生食で起こるため、生魚を好んで食べる日本人に多い病気なのです。
アニサキス症はほとんどが胃に起こりますが、小腸に起こることもあります。魚の種類として多いのは、アジ、サバ、サンマ、カツオ、サケ、イワシ、イカなどです(2)。
◇症状
おなかの差し込むような痛みに加え、時に吐き気を催し、嘔吐(おうと)することもあります。胃で起こる胃アニサキス症は、食後数時間で起こることが多いとされます(2)。
一方、腸アニサキス症の場合は、発症まで数十時間から数日とやや時間がかかります。また、5%と頻度は低いものの、じんましんや呼吸困難などのアレルギー症状や、発熱などの全身症状を起こすこともあります(3)。
◇治療
治療は、まず壁に潜り込もうとする虫体を除去することです。胃であれば、胃カメラ(上部消化管内視鏡)を使えば虫体を観察できますので、直接つまみとります。一方、腸アニサキスの場合、小腸の奥深くまで通常の胃カメラは潜り込めないため、虫体の確認は困難です。
しかし、人間の体はアニサキスにとって成虫が本来寄生すべき相手ではないため、1週間ほどたてば死滅してしまいます。したがって、痛み止めを使いつつ症状が治まるのを待つことになります。ただし、中には腸閉塞や腸に穴が開く穿孔(せんこう)を引き起こして手術が必要になるなど、重症化する例もあります。
◇予防が大切
細菌やウイルスは目に見えませんが、寄生虫であるアニサキスは肉眼で観察できます。長さ2〜3センチ、太さ0.5〜1ミリ程度ですから、もはや「巨大な」微生物と言ってもよいでしょう。
よって、最大の予防法は「食べる前によく観察すること」です。目視でしっかり観察し、見つけたらその場で除去すれば防げる病気なのです。実はアニサキス症の患者さんの10〜20%で、虫体が2匹以上見つかると言われています(3)。とにかく観察が大切です。
もう一つの大切な予防法は、加熱または冷凍です。アニサキスは60度で1分以上、100度以上の加熱なら瞬時に死んでしまいます(2,4)。また、マイナス20度で24時間以上置いておいても死滅します(2)。
一方、酸には強く、酢でしめても死にませんので、シメサバやマリネには生きたアニサキスがいる恐れがあります。しょうゆやわさびでも同様です。生魚を調理するときは、この点に十分に注意していただきたいと思います。(外科医・山本健人)
(参考文献)
(1)国立感染症研究所「アニサキス症」
(2)厚労省HP「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
(3)日本医事新報4386:68–74,2008
(4)人間ドック31:480-485, 2016
(2020/09/23 07:33)
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