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国の指定難病で、全身の筋力が低下する筋ジストロフィー。さまざまなタイプ(病型)があるが、小児期発症の筋ジストロフィーの中で患者数が最も多い「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)」に対して、これまでの対症療法から大きく前進し、遺伝子レベルで作用する核酸医薬品という新薬が実用化された。筋力の低下を遅らせる可能性があると期待されている。開発に携わった国立精神・神経医療研究センター病院(東京都小平市)筋疾患センターの小牧宏文センター長に話を聞いた。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療法
▽全身の筋力が徐々に低下
DMDは筋力の低下によって、走るのが遅い、転びやすい、立ち上がれないといった運動機能障害が3~5歳ごろから表れる。未治療の場合は筋力低下が徐々に進行し、10歳前後で歩けなくなることが多い。心臓の筋肉や呼吸をつかさどる筋肉の障害が進むと命に関わる。
男児に発症する疾患で、新生男児の3000~4000人に1人が発症すると推定されている。DMD患者では、筋肉の細胞を支えるジストロフィンタンパク質をうまく作ることができず、筋肉が細く、壊れやすくなっている。このタンパク質の「設計図」であるジストロフィン遺伝子の変異が原因だ。
根本的に治す治療法はなく、筋肉に起きている炎症を抑えるステロイド剤の内服や、関節の動きや呼吸機能を維持するリハビリテーションなどを組み合わせた治療が行われている。「数十年前と比べれば、患者さんは長生きするようになりました」と小牧センター長。それでも30歳を超える程度であり、新たな治療法が待たれている。
▽運動機能低下の遅延を示唆
2020年5月に発売された新薬のビルトラルセンは、これまでの薬と異なり、遺伝子に直接働き掛ける薬剤だ。変異したジストロフィン遺伝子の特定の部分に結合して覆い隠すことで、異常のある部位を飛ばして遺伝情報が読み取られることになる。それにより、正常より短く、量も少ないなど完全ではないものの、機能するジストロフィンタンパク質を作ることができる。
臨床試験では、ビルトラルセンの注射を週1回、6カ月間行ったところ、筋肉でジストロフィンタンパク質が作られ、運動機能の低下を遅らせる傾向が認められた。副作用として腎障害などが報告された。
ただし、DMD患者のうち、ビルトラルセンを使用することで読み飛ばせるような遺伝子変異がある人は1割程度とみられる。また、遺伝子そのものを変える根本治療ではないといった限界もあるという。
小牧センター長は「DMDに遺伝子レベルで作用する初めての薬です。今後は他の遺伝性疾患などにも核酸医薬品の使用が広がる可能性があります」と期待を寄せる。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
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