教えて!けいゆう先生
急な受診でも慌てない
「通院セット」を作っておこう(外科医・山本健人)
私は以前から患者さんに、「病院に行くときにこれさえ持って行けばOK」というような通院セットを作っておくことをお勧めしています。保険証や診察券、お薬手帳や各種医療証、過去の検査結果などをまとめて一つのケースに入れておくのです。
「通院セット」(著者提供)
カードの入るスロットが多めで、お薬手帳のような冊子が入り、かつボールペンを収納できるようなタイプが理想的です。
患者さんのご年齢によっては、昔使っていた母子手帳ケースが代用できることもあります。何年も現役を退いていた思い出の品を、今度は自分の受診に使うことができるということで、名案だと言ってくださる方もいます。
特にご高齢の方の場合、飲んでいる薬が多く、通院している医療機関も複数あることが多いでしょう。こうしたセットがあれば、慌てているときでも忘れ物をしにくくなるのです。
◇診察券が大切である意外な理由
特に準備不足になりやすいのが、救急車を呼んで病院に行くケースです。救急車を呼ぶくらいですから、ご本人もご家族もたいてい慌てています。病院に搬送され、私たちが診察しようとしたところで、「お薬手帳がないので普段飲んでいる薬が分からない」という事態に遭遇することもよくあります。
また、かかりつけのクリニックが分からず困る、といったこともあります。私たち医療者が、患者さんが普段どんな病気を治療していて、その病気がどのくらい悪いかを知りたいときに、かかりつけ医に電話で問い合わせることがよくあります。その際、診察券があれば、かかりつけ医の連絡先もスムーズに分かるのです。
救急車で搬送された患者さんが、普段の治療状況などうまく伝えられず、それを家族も十分に把握していない、というケースはしばしばあります。患者さんの体に起こった異変が、普段治療中の病気に関連するものなのかどうかを知ることは、私たちにとって極めて大切です。ところが、持ち物が不十分だと、それを知る術がないのです。
一方、いつも「通院セット」を用意していて、家族もそのことを把握していれば、そのセットをそのまま渡せば済みます。医療者はそこから必要な情報を引き出せるからです。
◇検査結果もあれば便利
過去に受けた血液検査や超音波検査などの結果を紙で手渡されたことがあれば、これもケースに入れておくと便利です。
特にご高齢の方の場合、さまざまな臓器が「加齢による変化」を起こしています。大きな病気にかかったことがなくても、若いころより心臓や腎臓の機能が悪くなっている、ということは往々にしてあります。
病院で検査を受けた際、過去の検査結果と比較することで、「普段から悪いのか、今回急に悪くなったのか」を私たちは把握できます。単一の検査結果だけでなく、複数回の傾向、推移を見ることも大切なのです。
病院を受診する機会の多い方や、そのご家族の方は、ぜひこうした「通院セット」を用意してみてください。きっと受診が楽になるはずです。(了)
著者(山本健人氏)プロフィル
著者プロフィル
2010年、京都大学医学部卒業。複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程、消化管外科。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設2年で800万PV超を記録。全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。
外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方(幻冬舎)』など多数。当サイト連載『教えて!けいゆう先生』をもとに大幅加筆・再編集した新著『患者の心得ー高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと(時事通信社)』は2020年10月下旬発売。
病気や症状に関する情報をインターネットで調べる人がますます増えています。しかし、ネット上の医療情報は間違いだらけです。間違った情報を信じ、適切な治療を受けられず、病状を悪化させてしまう人はたくさんいます。
私はこれまで、間違った情報にだまされ、医学的根拠の乏しい治療に傾倒し、目の前から去って行った多くの患者さんたちを見てきました。私が日々の診療で痛感するのは、「診察室の中だけでは彼らを助けることはできない」ということです。さまざまなテレビ番組、書籍、そして何よりインターネット。患者さんたちは、病院の外で膨大な量の間違った医療情報に暴露されているからです。
私たち医師は、病院に来ない人を助けることはできません。しかしインターネットを使って正しい医療情報を多くの人に届けることができれば、状況は変わるかもしれない。
時事メディカルは、医学的根拠に基づいた、正しく信頼性の高い情報を日々みなさんに提供しています。私は一介の医師の立場から、皆さんのお役に立てる情報を届けることで、その一翼を担いたいと考えています。(山本健人)
医師と患者の間には医学知識の格差があります。しかし、この格差は、患者が理解することが難しい専門的知識だけではありません。簡単な言葉で伝えれば、比較的容易に理解できる知識も多いのです。
特に高齢者はこの格差が大きい傾向にあり、「知らない」ためにせっかくの医療が十分に活用できないケースも見受けられます。高齢者が医療機関に通院・入院する際は、家族の協力も欠かせません。そこで、本書は高齢者の病気に対する考え方や、高齢者特有の問題にスポットを当てながら、高齢者とその家族のための知識を紹介しています。
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(2020/11/08 06:00)