インタビュー

筋ジス「不治でなくなりつつある」
日本で多い福山型の治療に意欲―戸田達史東大教授

  筋力が徐々に低下する「筋ジストロフィー」。根本的な治療法がない遺伝性の難病だが、遺伝子レベルの発病メカニズムの解明がこの希少疾患でも進み、新たな治療法の研究・開発に拍車がかかる。日本に多い「福山型」と呼ばれる先天性筋ジス患者を対象にした治療を目指す戸田達史・東大大学院教授(神経内科)は「筋ジスは『不治の病』ではなくなりつつある」と話し、根治に向けた意欲を見せる。

  ◇筋肉が萎縮し、筋力が低下

 筋肉は糸のような筋線維(筋細胞)が集合した組織。筋細胞は壊れたら再生することができる。「だが筋ジス患者の場合は筋細胞が壊れやすくなる。破壊に再生が追いつかず、次第に筋肉量が減り、筋力の低下と筋肉の萎縮が起きる」と戸田教授は説明する。

 国内の患者は推定で2万~3万人。「一口に筋ジスといっても、実際は40種類以上の筋疾患の総称で、原因遺伝子や遺伝形式がそれぞれ異なる」。全身のどの筋肉が壊れやすいかも病型ごとに特徴があり、体を動かす骨格筋だけでなく、呼吸筋や心筋といった不随意筋も侵される。「何歳ごろから症状が表れどのような経過をたどるのか、男女両方に患者がいるのかどうかも、全部違う」

 病気の進行につれ、運動機能障害で歩行が困難になる。食べ物をのみ込む、呼吸するといった機能や心臓の働きにも障害が起き、合併症を併発するのが典型的な重症患者で、呼吸不全や心不全で死に至る恐れもある。

 戸田教授によると、代表的な病型としては小児期筋ジストロフィーのデュシェンヌ型と福山型、成人になって発症する患者が多い筋強直(きょうちょく)性ジストロフィーなどがある。

 ◇遺伝子レベルの発病メカニズム解明進む

 国内の筋ジストロフィー患者の中で最も多く、数千~1万人いるとみられるのがデュシェンヌ型だ。原因はジストロフィンというタンパク質の遺伝子の変異。「発症するのは男子に限られ、おおよそ出生児3500人に1人の割合。3歳~4歳ごろから症状が表れる。走れない、つまずいて転びやすいといったことをきっかけによく気づく」と戸田教授は話す。

 小児期で次いで患者が多いのが福山型だ。男女合わせて1000~2000人と推定される。戸田教授らが別のタンパク質の遺伝子の変異を原因と特定し、このタンパク質をフクチンと名付けた。「先天性筋ジスの一種で、デュシェンヌ型より重症。赤ちゃんの首がいつまでも据わらないために気づくことが多い」。知的発達の遅れやけいれんといった中枢神経系の症状を伴うのも特徴だ。

 戸田教授が医師になったのは1980年代だが、この30年余りで患者の平均的な寿命は大きく延びた。「20代前半ぐらいだったデュシェンヌ型は30歳ぐらい、10代だった福山型も20代まで延びた。もちろん、もっと長寿の方もいる」

 最大の要因は人工呼吸器の進歩で、呼吸不全で亡くなる患者は大幅に減った。病状の進行を遅らせるステロイド治療やリハビリテーションによる改善も進んだ。

 筋ジスの原因遺伝子として初めて、ジストロフィン遺伝子が報告されてからも30年。筋肉に不可欠な種類のタンパク質をつくるさまざまな遺伝子の変異が、正常なタンパク質づくりを阻害するメカニズムもかなり明らかになり、根本的な治療法開発の扉を開く。

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