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人生の終わりは自宅で迎えたいと考える人は少なくないが、病気を抱えていると、体の状況や希望する治療などによっても望ましい「最期の療養場所」は変わってくる。国立がん研究センター(東京都中央区)が、がん患者の終末期の療養生活の実態について遺族を対象に行った全国調査からは、満足のいく療養生活を送るためには身近な地域における緩和ケアの充実に加え、患者自身がどこでどう過ごしたいか、早い段階から家族や医療者と話し合っておくことの大切さが改めて浮かび上がっている。皮膚がんの一種である悪性黒色腫で亡くなった記者の父の闘病経過も交えて考えてみた。
◇普及が進む緩和ケア
調査は2017年と18年に亡くなった20歳以上のがん患者の遺族約11万人を対象に、医療や療養生活の質、死亡1週間前の苦痛症状、療養場所などに関する医者と患者との話し合い、家族の介護負担感といった項目について19年と20年にそれぞれ実施。合計5万4167人から得られた有効回答を統合して集計、分析した。
調査対象の患者の死亡時の年齢は80歳以上が半数(50.2%)を占め、がん種の上位は肺がん(19.0%)、胃がん(12.5%)、膵臓(すいぞう)がん(10.2%)。診断されてから約半数(52.6%)の患者が1年以内に亡くなっていた。
最後の1カ月間は日常生活動作に何らかの介助が必要だったのは78.4%。また、13.3%が認知症と診断されていた。
患者の死亡場所は多い順に、病院が2万5436人(47.0%)、自宅が1万8687人(34.5%)、ホスピス・緩和ケア病棟(以下、PCU=Palliative Care Unit)が7220人(13.3%)、介護施設・老人ホーム(以下、施設)が2824人(5.2%)で、人口動態統計の分布とは異なる。
半数以上の3万611人が自宅で最期を迎えたいと希望していたが、実際に自宅で亡くなったのは、このうちの1万6194人にとどまった。しかし、最期の療養場所がどこであれ、患者のつらい症状や体の苦痛、不安などへ医師や看護師、介護職員ら医療者の対応について、8割が肯定的にとらえており、基本的な緩和ケアの普及が進んでいることが示された。亡くなった場所で受けた医療への全般的な満足度はPCUが79.4%で一番高かったが、自宅も79.1%でこれに続いた。
◇3割が終末期に「強い痛み」
しかし、最後の1カ月間の療養生活の質を個別に見ていくと、「痛みが少なく過ごせた」は47.2%、「体の苦痛が少なく過ごせた」41.5%、「望んだ場所で過ごせた」は47.9%にとどまる。
また、亡くなるまでの1週間は28.7%が「強い痛み」を、30.7%が「倦怠(けんたい)感・だるさ」を感じていた。遺族はその理由として、「医療者は対処したが、薬の効果が切れてしまった」ことなどを挙げている。がんの痛みの他に、褥瘡(じょくそう)や骨折、腰痛などによる痛みも考えられ、認知機能が低下している患者の場合は痛みをうまく伝えられないという問題もあるという。
最後の一週間の苦痛症状を療養場所別に見ると、PCUや自宅、病院では3割近くが強い痛みを感じていたのに対して、施設では13.5%と低さが目立った。理由として、施設で療養する患者は高齢のため認知機能が低下していて症状がはっきりと表れない可能性があることや、逆に症状が比較的落ち着いているから施設での療養が可能だったことなどが考えられるという。
調査をまとめた同センターがん医療支援部の小川朝生医師は「緩和ケアは普及しているが、ステップアップが課題。痛みが残った場合、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)を増量する、他の鎮痛薬と組み合わせるなど薬剤をもう少し上手に使うことや、整形外科的な痛みにはマッサージや安静の工夫、せん妄によって苦痛がうまく伝えられない患者への対応などができるようになると、緩和ケアの質の向上につながるのではないか」と指摘する。
◇病状や治療によって変わる療養場所
病院での療養生活について、一般病院と、専門的ながん医療を行うがん診療連携拠点病院を比較すると、拠点病院では患者が亡くなるまでの1カ月間に痛みや苦痛を抱えていた割合が一般病院より高く、最後の1週間の痛みやだるさの割合も高かった。拠点病院は一般病院より患者が比較的若いため積極的な治療を希望する人が多いことや、一般病院の患者より病状が重いため、他の療養場所に移ることが難しいことが影響していると同センターは分析している。
このように、最期の療養場所は患者の背景や病状などによって決まる面もあるが、どこで療養するかや、治療について患者と医者の間で十分な話し合いができていない現状も明らかになった。療養場所について話し合っていたのは全体の35.7%で、心肺停止時の蘇生措置についても35.1%にとどまる。
ただ、自宅で亡くなった患者の場合は64.4%が療養場所について話し合っており、結果として86.8%が最後の1カ月間を望んだ場所で過ごせたと回答するなど、療養生活への満足度は比較的高かった。しかし、亡くなるまでの1週間の痛みや倦怠感・だるさは、自宅と病院やPCUの間に大きな差はなく、自宅で過ごしたほうがよいとは言い切れない面もある。「病院の中では毎日患者の評価がされ、痛み止めなどの調整ができるが、在宅医や訪問看護師が患者の家を訪れるのは、普通は1週間に1、2回。症状の観察の頻度が違う」と小川医師。
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