治療・予防

脚の動脈硬化にも警戒を-下肢閉塞性動脈疾患~脳梗塞や心筋梗塞だけでなく下肢切断のリスクにも ~

 動脈硬化は、コレステロールや喫煙、糖尿病高血圧などによって動脈壁に動脈硬化巣ができ、それらの働きで動脈を詰まらせ、下流組織の血流を悪化させる病気だ。心筋梗塞や脳梗塞は、動脈硬化症の代表疾患として広く知られているが、下肢の動脈硬化はあまり知られていない。

東教授提供

 下肢の動脈硬化は、下流にある筋肉に血流障害を起こして歩く際の筋肉の痛みを引き起こし、進行すれば先端部の壊死(えし)まで至ることもある。   

 旭川医科大学の東信良(あずま・のぶよし)教授(血管外科)は、「下肢動脈でも動脈硬化や血栓による梗塞は起きているが、少しずつ閉塞(へいそく)が進む事例も多い。この場合、血流を補うために血管の枝がつながって『側副血行路』と呼ばれるものが自然に形成されて症状がゆっくり進むため、年のせいで脚が弱ったと思い込み、病気だと気付かない患者さんも少なくない。ただ、全身の動脈硬化が同時に進んでいる可能性もあるだけに、痛みなどの自覚症状が出てきた場合は注意が必要」と話す。

 臨床現場では足首と上腕部の動脈圧を測定して、その比率で動脈硬化の程度を評価し、必要に応じて造影剤を使って動脈硬化の状態をX線画像で診断する。動脈硬化による閉塞度合いが進行し、安静にしていても足が痛んだり、先端部などに血流不足による潰瘍や壊死が生じれば、血管の内側に金属製の網でできたステントと呼ばれる筒を入れて血流を再開させたり、新たな血液の通り道をつくるバイパス手術を行うなどの治療が必要になる。 「それぞれの治療法には一長一短があり、閉塞している部分の長さや状態に応じて選択していく」という。

 ただ、これらの血管治療は「一度施術すれば、その後は放置できる」というわけではない。一度血流が再開しても血液を固まりにくくする薬の服用が必要になってくる。

 北九州市の小倉記念病院循環器内科の曽我芳光(そが・よしみつ)部長は、「これまで脚の動脈閉塞で血流を再開させる治療を受けた患者さんの再発防止策は限られていた 。特に、再閉塞が急激に進行した場合は、痛みなどの 自覚症状を伴う上、再度血行を回復させるためには、バイパス形成手術など患者への負担も大きい治療にならざるを得ない」と話す。

 このようなリスクを引き下げるために従来は抗血小板薬の投与が中心となっていたが、新たに抗凝固薬を併用する治療が選択肢に加わった。 これによって血液内で出血時などに止血の働きをする血小板の凝集とフィブリンの生成凝集を抑制し て、血流をスムーズにする。

 ただし、曽我部長は「効果は、出血時に止血しにくくなるというマイナス面と背中合わせ。特に高齢者や腎機能が低下している患者さんは、そうでない患者と比べて出血しやすく、注意が必要」と指摘する。下肢だけでなく、全身の動脈閉塞性疾患のリスク低減につながるだけに「今後も研究が必要」と強調する。(了)

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