動脈硬化症〔どうみゃくこうかしょう〕 家庭の医学

 動脈硬化は、動脈の老化現象で、年をとれば誰にでも起こり、一度起こって進んだものは完全には治らないといわれます。動脈硬化はいろいろな型があり、なかには、食物やストレスの影響が重大で、それによってわるくも、よくもなるというものがあります。
 このようにいろいろな意見があるのですが、一般に、動脈硬化は次の3つの型に分けることができます。
 ①老人性の大動脈から直接分岐する比較的太い中動脈に石灰化が起こる型
 ②動脈の内壁にコレステロールなどの脂質がたまり、粥腫(じゅくしゅ:アテローム)と呼ばれるふくらみを形成し、同時に動脈壁の平滑筋が増殖して内膜を狭くし、脳や心臓の病気の原因となる典型的な動脈硬化アテローム変性(粥腫型)
 ③細動脈の硬化
 動脈は図のように内膜、中膜、外膜の3層からなっていますが、①は中膜に、②は内膜におもに変化がきます。

 また、これら2つの動脈硬化は、動脈の太いところか中等度のところに起こり、血圧はふつうか、いくぶん高くなります。しかし、最大血圧は上がっても最小血圧は上がらず、90mmHg以下です。これは、動脈の弾力性が少なくなったため、最大血圧だけが高くなったものです。③の細動脈硬化は、高血圧が長く続いた結果、動脈の末梢の細い部分が硬化するものです。
 この3つの型の動脈硬化は別々に純粋なかたちであらわれることもありますが、時に、組み合わさってあらわれることもあります。
 これらのうち比較的性質のわるいもの、つまり、あとに述べるように、脳や心臓や腎臓などの重要な器官に動脈硬化による病変を起こして寿命をちぢめるものは、②と③の動脈硬化です。③の細動脈硬化は、むしろ高血圧の結果として生じるものですから、問題は高血圧のほうにあります。

[原因]
 もっとも重要なのは、前述②のアテローム変性です。アテローム変性の動脈硬化は、比較的若い人、30歳代でも40歳代でも起こります。ことに、ストレスの多い人、美食する人によく起こり、肥満した人、糖尿病の人にもよく起こります。欧米人に心臓病が多いのは、おもにこの型によるものです。
 動物性脂質、特にコレステロールと呼ばれる脂質が問題です。コレステロールは動物の細胞膜の大切な構成成分で不可欠なものですが、動物、ことにウサギやニワトリにコレステロールを余計に食べさせると、動脈硬化が起こり、やめるとよくなります。人間で動脈硬化のある部分を調べると、コレステロールが沈着しています。また、その人の血液はコレステロール含有量が高く、不安定な状態にあります。
 コレステロール、そのほかの脂質は血液の中ではたんぱく質といっしょになってリポたんぱく(脂たんぱく)をつくっていますが、コレステロールは、このリポたんぱくのなかで粒のやや粗い、わりに軽いβ(ベータ)リポたんぱく(LDL)に多く入っており、これが動脈硬化を進めます。
 リポたんぱくのなかで粒のこまかい比較的重いα(アルファ)リポたんぱく(HDL)はコレステロールを処理する能力に関係があり、HDLが多いほど動脈硬化が進みにくいといわれます。
 冠動脈硬化のある人は、一般に、血液中のコレステロールやβリポたんぱく(LDL)の濃度が高く、またバターやクリームを食べたあと、その濃度が高くなります。このβリポたんぱく(LDL)は肝臓に取り込まれて分解されますが、血中に多くなると変性して血中の貪食(どんしょく)細胞(白血球の一種)と呼ばれる細胞に取り込まれ、この細胞が血管壁に入り込んでアテローム変性を起こします。これらの事実は、この型の動脈硬化が食物の内容に強く影響されることを推定させるものです。
 中性脂肪(トリグリセリド)も動脈硬化性疾患を促進させるといわれます。中性脂肪は、でんぷんやアルコールなどの糖質をたくさんとると血中で増加します。中性脂肪が多いと、血液は白く混濁し、LDL、HDLコレステロールは少なくなり、コレステロールの多い人では両者が影響して動脈硬化になりやすいことがわかっています。
 遺伝的に、脂質の代謝酵素に異常のある場合、脂質の処理能力が弱く、血中のコレステロールや中性脂肪などが多くなり、このような人たちは、動脈硬化性の病気にかかりやすい性質があります。
 動脈硬化を促進する要因とされているものは、遺伝関係、高血圧、食物、特に動物性の脂質(コレステロールや飽和脂肪酸の量)、運動不足、肥満、ストレス、たばこ、慢性の感染症、中毒や糖尿病、痛風などです。

[症状]
 動脈硬化は、それが起こっている部位によって、症状、経過が違います。大動脈の硬化があっても、特別の症状を起こしません。心臓の冠動脈に硬化が起こると、狭心症や心筋梗塞が起こったり、心不全になったりします。
 脳動脈に硬化(脳動脈硬化症)が起こると、あるときはめまい、頭痛、耳鳴りがあり、記憶力が低下し、不眠のほか気が短くなり、怒りっぽくなります。この病気が進むと、脳梗塞を起こし、足がまひしたり、口がうまくきけなくなったり、排尿が円滑にいかなくなったり、表情がなくなったり、認知症のようになることがあります。
 動脈硬化が腎臓に起こると、萎縮腎といわれる状態になります。高血圧が急にひどくなることもあります。夜、何度もトイレに起きるようになり、薄い尿がたくさん出ます。高血圧の進んだ時期には、必ず腎臓がわるくなり、尿にたんぱくが出、顔や足がはれぼったくなったりし、また目がかすれてきます。ついで、心臓もわるくなります。
 動脈硬化が足の動脈に起こると、足がしびれたり、冷たく感じたり、また、特有の症状としては歩行中痛んだり、だるくなったりし、すこし休むとまた歩けるといったような状態になります(間欠性跛行〈かんけつせいはこう〉)。

[治療]
 長年かかってでき上がった動脈硬化を治すのは、なかなか困難な問題ですが、その病気の型によっては、治療の結果ある程度よくなるでしょうし、また進むのを予防する可能性があります。なるべく早くから治療に心掛けてほしいと思います。
 一般的にいうと、生活を規則正しくし、仕事をしたあとは、適度の休養をとって、疲労が残らないようにします。徹夜、暴飲暴食などは、つつしまなければなりません。
 すでに動脈硬化が進んでいるときは、その程度によって、十分な休養が必要ですが、心臓や脳の動脈硬化によって、心筋梗塞を起こしたあとや、脳塞栓(そくせん)を起こしたあと、また足の動脈硬化で歩くと痛むという場合を除いては適当で定期的な運動も必要です。
 次に、食事は、体重がふえない量に制限することがいちばん大切です。体重は少なくとも月2回は測定します。増加することがないように限度を決めて、それに合わせます。
 ふつう動物性脂質を制限しますが、たんぱく質の多い肉は適度にとります。比較的若くて動脈硬化の起こった人では、脂質、特に豚肉や牛肉の脂肪、バターなどを禁じます。
 卵や牛乳もむやみに食べてはいけません。太った人のなかには、早くから動脈硬化が起こる人がありますから、食事全体を減らして、腹八分にとどめなければいけません。
 たばこは禁じ、酒は少量ならいいでしょう。糖尿病、高血圧、痛風などのある人はその治療ももちろん大切です。
 動脈硬化の薬物療法としては、コレステロールを低下させる薬剤がもっとも重要です。特に、すでに心筋梗塞などを発症しており、その再発を防止する必要のある人には、コレステロール低下薬はかなり効果があります。
 標準的治療薬は、スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)です。また、前記のような症状がなく、単に血液中のコレステロールの値が高いだけの人も、たとえば悪玉コレステロール(LDLコレステロール)140mg/dL未満へのコントロールを目標とします。コレステロール低下薬以外の薬としては、β遮断薬、アスピリン(抗血小板薬)なども心筋梗塞の予防効果があります。なお、臓器の動脈硬化については、それぞれの項を見てください。
 粥腫(じゅくしゅ)で血管内腔(ないくう)が狭くなっている場合には、バイパス手術やバルーン付きカテーテルによる拡張療法(経皮経管冠動脈形成術:PTCA)、さらに金属のステントを留置するなどして、血流を回復させる方法が用いられます。

【参照】運動と動脈硬化高血圧の食事療法

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