教えて!けいゆう先生

「抗がん剤だけは絶対に嫌だ」と言う人にこそ知ってほしいこと 外科医・山本 健人

 本や雑誌で「抗がん剤は副作用がものすごくつらい」「まともに生活できなくなる」という記事を見たので、抗がん剤治療は絶対に受けないと決めています…。

 そうおっしゃる患者さんに少なからず出会います。

 本や雑誌の記事でよく語られる「病気の体験談」は、がんの治療を受けようとする患者さんに、とてつもなく大きな影響を与えるのです。

 そのようなお話を聞いたとき、私はゆっくり落ち着いて、抗がん剤治療の実態について説明します。

本や雑誌の体験談にショックを受けたとしても、それぞれの事例が自分に当てはまるとは限りません。まずは専門家に相談してみましょう【時事通信社】


 ◆膨大な種類

 まず、抗がん剤には膨大な種類があり、副作用の種類や強さはそれぞれ全く異なります。

 例えば、「抗がん剤治療を受けたら髪の毛が抜ける」と思っている人は多いのですが、これも薬の種類によって異なります。当然ながら、副作用に「脱毛」がない抗がん剤も多くあるからです。

 また、がんの種類によって、使用する抗がん剤は全く異なります。

 それどころか、同じがんであっても、その進行度や目的に応じて、使うべき抗がん剤は違います。

 本や雑誌で読んだ体験談が一体、どの種類の、どの進行度のがんに、どんな抗がん剤をどのくらいの強度で投与されたものなのか。それが分からないと、比較のしようがありません。

 ◆副作用を予防する手段

 もちろん、抗がん剤に副作用があるのは事実です。

 というより、副作用のない薬はありません。

 ただ、近年は抗がん剤の副作用を予防する手段もかなり増えました。

 そのおかげで、午前中に抗がん剤の点滴治療を受け、午後から出勤する、といった生活スタイルも可能になっています。

 2、3週間に1回、病院に通い、点滴治療を受ける。入院は必要ない。そういった抗がん剤の方が、今では一般的です。

 ◆「受けないデメリット」

 本や雑誌で読んだ体験談が、いつの時代の、どんな治療について述べられたものなのかが分からないまま、その体験を自分に重ね合わせ、無用に不安感を募らせていたとしたら、割に合いません。

 もちろん、副作用の出方には個人差があり、人によっては生活に制限が加わることもあります。

 つらい思いをする患者さんがいらっしゃるのも事実です。

 その場合は、用量を調節したり、期間を空けたりなど、さまざまな対策を取ります。

 そして、抗がん剤治療には、「受けないデメリット」があります。

 それを抗がん剤治療の「効果というメリット」と比較し、後悔しない選択肢を一緒に考えたい。私はそう答えます。

 ◆偏った情報に注意

 加えて、このように本や雑誌を読んだ感想を、自分に伝えてくださったことに心から感謝します。

 偏った一方的な情報だけを信じ、誰にも相談せずに治療をやめ、目の前から去ってしまった患者さんには、正確な情報を伝える機会がなくなってしまうからです。

 本、雑誌、新聞、テレビ、インターネット、SNS。

 さまざまなチャンネルから、膨大な量のがん情報が入ってくる時代です。

 そこから得た情報は、真実の一つの側面を捉えたものに過ぎないかも知れません。

 治療方針を決断するときは、直接診察してくれるがんの専門家に、まず相談することをお勧めします。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

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