治療・予防

中年以降の女性、痩型は注意
~せきやたん、倦怠感―肺NTM症~

 長引くせきやたん、血たん、発熱、全身の倦怠(けんたい)症状…。それは肺NTM(非結核性抗酸菌)症という病気かもしれない。認知度は一般の人だけではなく、医療関係者を含めても高くない。しかし、世界的にこの病気になる人は増加し、日本でも罹患(りかん)率が上昇している。昭和大学横浜市北部病院呼吸器センターの林誠・診療科長補佐は「肺NTM症は、痩せ型で中年以降の女性により多く発症する」と話す。

肺NTM症の主な症状

 ◇日本でも罹患率上昇

 発症する人はわずかだが、発症のメカニズムは完全には解明されていない。2007年、罹患率は10万人当たり5.7人だったが、17年には同19.2人へと約3.4倍に増加し、現在では肺結核の罹患者数を上回る。今後も患者数は増加傾向をたどるとみられている。

 NTMは結核菌と同じ抗酸菌というグループに属する。結核菌が人間や一部の動物の体内だけでしか生息できないのに対し、NTMは主に土壌や水中、都市の給水システムなどに生息する環境生息菌だ。NTMの感染部位は肺や皮膚、骨、リンパ節などが報告されているが、多くは肺疾患である肺NTM症の症状を呈する。

 ◇浴室からの感染注意

 なぜ、中年以上の女性に多発するのだろうか。林氏は「痩せることによって免疫系を活性化させるレクチンというホルモンが減り、ホルモンのバランスが乱れるのかもしれない。また、閉経という女性にとって人生の大きなイベントが関与しているのかもしれない」と話す。

 肺NTM症は、マイコバクテリウム ・イントラセルラー、マイコバクテリウム・アビウム という二つの菌による感染症のMAC症が約9割を占める。林氏は「MAC症の背景には気管支拡張症がある」と指摘する。気管支拡張症は気管支が広がったまま元に戻らない病気で、広がった部分で細菌やカビが増殖して炎症を引き起こす。さらに、MAC菌は水や土壌などの自然環境に広く存在する。家庭では、「特に浴室からMAC菌が来ていることが多い」と言う。浴室を乾燥させ、清潔に保った方が良いだろう。

 治療は化学療法が中心で、軽症の場合は内服薬、重症や難治性の場合は内服薬に加え、筋肉注射や点滴が検討される。

 ◇呼吸リハビリがある

 複十字病院(東京都清瀬市)リハビリテーション科の髻谷満(たぶさだに・みつる)科長によれば、呼吸に関する病気のリハビリは、脳卒中骨折、心筋梗塞などさまざまな病気のリハビリの一分野だ。

 「体を動かすときの呼吸の苦しさを緩和したり、低下した日常生活動作を改善したり、気道感染などによる症状の増悪を予防したりするのが目的だ」

 呼吸リハビリの実際は、首の周りや胸、背中の筋肉をフルに使う呼吸、腹式呼吸、リラックスして楽にできる呼吸を指導するストレッチ・マッサージなどがある。息を吸ったり、吐いたりしながら行う階段の上り下り、靴下やズボンの着脱や洗髪の工夫などを指導する。

 髻谷氏は「呼吸に対するリハビリが存在することを知ってほしい。主治医にも伝えてほしい」と強調する。

 ◇富士山に登っているような感じ

 78歳の鈴木響子さん(仮名)は2009年夏に風邪を引いた後、時々、軽いせきをするようになった。「何でせきが出るの? ひょっとしたら肺がんではないか」。受診した結果は幸いがんではなかったが、経過観察のために半年に1回、レントゲン検査を受けた。5年ほどたった頃、クリニックの主治医の勧めで呼吸器専門の病院を受診し、肺NTM症と診断された。

 鈴木さんは「急に増悪症状が進んだことがつらかった」と振り返る。林氏によれば、親族を亡くしたり、気候が暑かったり、寒かったりして心身にストレスがかかったときに一時的に悪化することがあるという。

 「軽い呼吸困難は治らない。溺れるような苦しさ、富士山に登っているような感じだ」
鈴木さんはつらい症状をこう説明した上で、「リハビリをきちんとやり、筋力をつけている。栄養バランスを考え、たんぱく質をしっかり取っている」と前向きに話す。(鈴木豊)

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