気管支拡張症〔きかんしかくちょうしょう〕 家庭の医学

 気管支拡張症は、気管支の壁が炎症で破壊されることにより、気管支の壁が厚くなり、気管支が拡張したままでもとに戻らないようになった状態を指します。病変は比較的太い気管支に起こり、下葉に好発し、左肺にやや多い傾向があります。気管支の拡張性変化をもたらした、もとの病気があきらかな場合には、気管支拡張症よりももとの病名がつけられることになります。

[原因]
 気管支拡張をもたらす原因として感染症、気管支の閉塞、先天的な異常、免疫の異常などがあります。感染症は気管支拡張症の原因のなかでもっとも重要で、患者の多くはたん症状が小児期の肺炎にかかったときからみられます。
 先天的に気管支の線毛に運動障害のある原発性線毛機能不全症(Primary immotile cilia症候群ともいいます)にみられる気管支の拡張も、感染症による気管支の拡張と同様の過程で生じると考えられています。
 気管支拡張症は、拡張した気管支のかたちにより、円柱状拡張、蔦(つた)状拡張、嚢(のう)状拡張などに分類されます。また、分布により局所性気管支拡張症と肺内に広く分布するびまん性気管支拡張症に分けられます。

[症状][診断]
 慢性のせき、膿(のう)性たんの喀出(かくしゅつ)、発熱、疲れやすさ、体重減少などがみられます。これらの症状は、拡張した気管支に感染が加わったり、付随するほかの病気によりもたらされます。感染が加わるとたんの量が増加します。呼吸困難は、気管支拡張症に伴う慢性気管支炎や肺気腫により生じます(COPD(肺気腫、慢性気管支炎)参照)。
 血たんは、気管支拡張症にしばしばみられる症状です。通常は、うみのようなたんにまじって血液がみられる程度ですが、気管支動脈からの出血の場合には1日250mL以上の大量喀血をみることもあります。
 気管支拡張症では慢性副鼻腔炎をはじめとして、肺炎膿胸(のうきょう)気胸肺膿瘍などの肺感染症などの合併が、臨床症状をもたらしている場合があるので注意が必要です。
 異常に拡張した気管支病変を検出するためにX線検査がおこなわれます。胸部単純X線検査では、気管支壁の肥厚像や嚢状に拡張した気管支腔が輪状影として観察されます。胸部CT(コンピュータ断層撮影)検査は、拡張した気管支の描出も可能であり、ほかの病気との鑑別や拡張病変をもたらす原因となる病気を見いだすことができる優れた検査法です。
 胸部CT検査では、壁が肥厚した気管支が軌道状の太い線(tramline)や円形の透明な像として観察されます。円柱や紡錘状に拡張した気管支では数珠(じゅず)状にみられ、嚢状拡張ではぶどうの房状に観察されます。拡張した気管支内に貯留した液体により、鏡面形成がみられることがあります。
 気管支鏡検査は、血たんや喀(かっ)血の出血源や気管支を閉塞している病変、および病原体検査に供する気管支内貯留液を採取するために有効な手段です。原発性線毛機能不全症では、線毛の構造に特徴的な異常が電子顕微鏡によって観察されます。この病気では内臓逆位、副鼻腔炎や男子不妊症などを合併します。

[治療]
 新たな感染の予防のため、手洗いやうがい、各種ワクチン接種が重要です。感染対策として抗菌薬使用が治療の中心となります。急に悪化した場合には、たんの検査により確認された細菌に対して有効な抗菌薬を一時的に使用します。
 悪化をくり返すことにより常に気管支閉塞を生じている場合に、気管支拡張薬(β2刺激薬)の使用により気管支閉塞の改善がみられるときには、β2刺激薬の吸入をおこないます。悪化をくり返すことにより低酸素血症を生じている場合には持続的酸素吸入治療が必要です。またわが国では、びまん性汎細気管支炎の治療に繁用されているエリスロマイシンをはじめとするマクロライド系抗菌薬が長期の管理治療として使用されることもあります。気管支の中に貯留した液を喀出するために、体位ドレナージや吸入療法、去たん薬の使用をおこないます。重力を利用してたんの喀出をうながす体位ドレナージ法は、この病気の気道を浄化するためには非常に有効な手段です。
 外科的切除治療は、病変部が局在し大量の喀血や血たんが持続する人が対象となります。気管支からの大量出血に対して、気管支鏡を用いて気管支を閉塞する方法や気管支動脈塞栓術で止血を試みる治療法もおこなわれています。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 塩田 智美)
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